策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 卯波先生の口から聞くのと、最終的に処置を施す院長の口から聞くのとだと、私の心に突き刺さる言葉の重みが違う。

「大丈夫か?」
 先に卯波先生が声をかけてくれて、つづいて私の顔を覗き込んだ院長も心配そう。

「緒花には、まだ重くてつらい話だったか」
「いいえ、少し驚いただけです」

 まさか院長の言う通り、話がつらくて苦痛だなんて言えない。

 仕事なんだと、自分に言い聞かせないと。

「あと数日、あと数日で現実がやってくる。緒花は目にしなきゃならない、これが俺たちの仕事なんだよ」

 レクに思い入れがあるから、お別れはつらい。
 
 でも苦しいのをこらえた、悲鳴に似たレクの鳴き声や苦痛の姿を見聞きすると、早く楽になってほしいと願う自分もいる。

「一頭ずつに向き合い、徹底的に患畜を救うことに貢献できるのが、獣医療スタッフとしての最大のやりがいなんだよ」

「どのオーナーも、一人ひとりが第二の患者だ。今回は、レクのオーナーを救うことにも貢献してみないか?」

 院長のやりがい、卯波先生の提案。二人とも、代わるがわる声をかけてくれる。

「レクにしてあげられる精一杯のことをしてあげて、オーナーとも向き合う努力をします。どうか、よろしくお願いします」

 院長も卯波先生もオーナーの心のケアをしながら、私のような獣医療スタッフの心のケアも、しっかりとしてくれる。

 頼りになる同性の坂さんも、力強い味方でいてくれる。

 私は支えられて、今回も乗り越えられる。乗り越えると心に誓った。

 話が終わって、夕方の入院患畜の処置を施しているころに、レクのオーナーがお見舞いにお見えになった。

 ラゴムは全面ガラス張りだから、私と卯波先生がいる入院室からは、隔離室が丸見え。

 声は筒抜けとまでは言えないから、会話の内容はわからない。

 患畜の世話をしているあいだ、卯波先生は保定の必要のない患畜の処置を施している。

 ごはんをくれくれと大騒ぎの患畜に、それぞれのごはんをせっせと作り、次々にケージに入れていく。

 少ししてから、空いた食器を下げ始めたら、隔離室の様子が目に飛び込んできた。