策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 安心した私の顔を見て、卯波先生も安心したのかな、レクの話に戻った。

「動物管理事務所で感染したんだろう。きっと大きいストレスがかかり、健康状態もよくなかったのかもしれない」

 ただでさえ、いきなり捕獲されて知らない場所に連れて来られるんだもん。

 それに加えて、いろいろな性格の見知らぬ犬といっしょに収容されたら、たしかにストレスになるよね。

「院長、お話中のところ申し訳ございません、診察お願いします。外来が詰まってます」

「今、行く。体がいくつあっても足りないな、レクをよろしく」

 坂さんから受け取ったカルテに目を落とし、説明を聞きながら去って行く院長。

 ぎっしぎしのスケジュールの中、あちこち飛び回る院長のフットワークの軽さに感心して、ぽかんと見送った。

 頭上から、視線の雨が降るのをビシビシと感じて仰ぎ見れば、横に流す伏せ目と目が合う。

「ぽかんとした顔で、宝城を見ているんじゃない」
 
 いつもの“来い”って顎の合図で、颯爽と歩き出すから、慌てて小走りでついて行く。

 隔離室まで小走りじゃないとついていけない事実が、足の長さの違いを見せつけられてつらいわ。

「大丈夫な顔をしているつもりか、毎日へとへとに疲れているじゃないか」

 だから、足の長さが違うから疲れるんですよ。

「や、足の長さが問題じゃなく」

 こっちこそ、“や”って否定させてよ、どうしてわかったの?

「疲れているだろう」

 心当たりがある私は、もう一度聞こえてきた呟きみたいな言葉に、卯波先生を見ればレクの輸液ポンプをチェック中。

「また気づいてくれてたんですか?」
「みんなの目は誤魔化せても、俺の目は誤魔化せない」

 言うや否や錠剤を二錠手渡された。なんの薬?

「疲労回復薬と栄養剤だ、今のうちに飲んでおけ」
 気づいて渡してくれるなんて、卯波先生優しい。

 ナースシューズを、マットで踏み締めて消毒して、すぐに飲んで戻って来た。

「緒花くんは痛い、苦しい、つらいとか心や体が感じて訴えても、その弱みの見せ方を知らない」
 弱みの見せ方って。

「甘え方とも言える。資質だから変わらないだろうが、軽くはできる」
 つらいとか甘えるとか、考えたことないなあ。

「緒花くんが深刻なのは最初だけだ。あとはケロッとしている」
 院長みたいなことを言う。

「私がわかってないのに、そこまでわかってるんですか?」