策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「はい、ただいま」
 受け取りに来た坂さんに、院長がスピッツを渡した。

 そのまま即入院になり、院長が診察台のバスタオルで包むレクは、ぐったり。

「ジステンパーの疑いがある、ここ徹底的に消毒して」

 時計の秒針と競い、一刻も惜しんでレクを隔離室に連れて行く院長を見送り、診察室内を念入りに消毒した。

 終わって、すぐに()き立てられるような速さで隔離室に急ぐと、院長が卯波先生にカルテを見せて話し合っている。

「来たか、レクの部屋を作ってあげてくれ、そこ」
 院長の指さす方向を見ると、だれもが最初に目がいくケージ。

「ワクチン未接種か。嘔吐とお腹の下りは、二次感染をおこしていると断定できる」
 
 レクの情報を読み上げながら、スクリーンに入力していく院長の隣で、卯波先生が断言した。

「だろ、テンパーの可能性が高い」

 息の合った二人が無駄な動きもなく、迅速に対応していく。
 こういうのがプロとプロの、あうんの呼吸っていうんだ。

「栄養補給と抗生剤の点滴投与で、対処療法を施す」
「あとは血検の結果次第、外来に戻るわ」
「了解」

 院長は、すぐにまた次の外来診察のために席を外し、レクの部屋を作り終えた私は、レクの処置を施す卯波先生の介助についた。

「保定」

 さすがの院長も緊急時は、いつもの陽気さはどこへやらで淡々とこなしていたけれど、卯波先生は緊急時だろうと平常時だろうと冷静沈着は変わらない。

 処置中も、お腹の下りの検査結果を気にかける卯波先生の目は、レクとスクリーンを交互に馳せる。

「結果が出た、ウイルスだ、テンパー確定」
 テンパーって決まったんだ。

 慌ててオロオロしかけた私の心は、冷静で淡々とした卯波先生のおかげで、落ち着きを取り戻した。

「感染力の高さに、怖じ気づくことはない。レクの命を救うために、やることをやるだけだ」
 勘がいい卯波先生のこと。動揺する私のことを、すぐに察して励ましてくれる。

 処置を施し、レクを抱える卯波先生のうしろを、点滴を持ちながらついて行く。

「強制給餌をしてみてくれ」
「はい」

「レク、免疫力を高めないと体力がつかないんだ。お願いだから、少しずつでもいいから食べてくれよ」

 低く穏やかな抑揚のある声で、レクに語りかける横顔が優しい。

 切なそうな顔や声で、励ましたり懇願したりする卯波先生を初めて見た。