策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「それに、そんなこと言ってたら、他の人に好きな人を取られちゃいますよ、受け身ですね」

「宝城は受け身だ」
 寄ってくる中から選べるからじゃないの? よく美男美女は、受け身って言うし。

「モテるから、わざわざ自分からアプローチしなくてもいいのかな」

「この人だと決めたら、自分から積極的にいけばいいのにな」
 院長なら、語尾に“イケメンだけどな”ってつける。

 卯波先生は、こういうところも謙虚で謙遜するから、そういうことを冗談でも言わない。
 や、そもそも冗談を言うタイプじゃないな。

 卯波先生って、クールで恋愛なんて興味なさげなのに、好きになったら情熱的なんだ。

「自分の世界に入り込み、無言になっているのは、俺のことを考えているから」
 ちらりと視線を横に流して余裕ありげ。

「ち、ちが」
 弁解しようとしたら、卯波先生がかぶせてきて口を開いた。
 人が話している途中に珍しい。

「宝城のことが、じれったいか。話をつづけて」
 顎でつづけろと合図をしてくる。

 あまりにさりげなくて、流しそうな間合いだけれどね。
 ねえねえ、どうして、じれったいってわかったの?

「相手が院長を好きかどうかも、院長はわからない。それは、誰にでもありますよね」
「あるな」

「院長は、相手を好きでもアプローチしないなら、好きになってくれるまで待ったり、アプローチしてくるまで待つんですか?」

 ああああ、じれったい。
「プライベートまで、根気強く粘り腰だ」
 結果を出すまでが長いな。

「それなら、今までの院長の彼女は、ガツガツとアプローチした猛者ですよね。そうしないと恋愛にならないもん。あんな完璧な人を前に果敢に挑みましたね」

 私の言葉に、懐かしい昔の記憶を辿っているような遠い目をしていて、黙っちゃった。

 ふだんは芯が強いですって感じの鋭い目つきなのに、今の卯波先生の瞳はふんわり穏やかで優しいから、じっと見つめてしまって、目が離せない。

「卯波先生は、好きな人を特別扱いもするし、情熱的だから素直に正直にアプローチしますよね」

「ああ、もちろん」

 穏やかな低い声には、ふだんの強さがなくて、優しくてぼんやりした声。
 声まで卯波先生らしくないなんて。

 遠い記憶を掘り起こして懐かしんでいたときに、誘導尋問の私の質問が耳に入り込み、つい自然に答えてしまったみたい。

 ハッとわれに返り、必死に冷静さを取り繕うとしている顔やしぐさを初めて見た。

「もう昼休みが終わる、オペの後片付けに行け」
 慌てている姿を初めて見たから、じっくり観察してしまう。

「ぽかんと見ているな、早く行け」
 そんなに急かさなくても行きますったら。