策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「傷つけまいとして口説かない。それに、よく知っている、口説かれて傷つく人がいることを。宝城は心が優しいから」

 親友を、心が優しいって褒めるなんて最高。
 きっと男同士はドライだから、本人の前では褒めないでしょう。

「どうして口説いたら、傷つけてしまうんですか?」

「相手が宝城を好きではなかったり、口説いた相手に好きな人がいたら傷つけてしまう。悩ませてしまうとも言っていた」

「院長は好きになる人には、もれなく好きな人がいるんですね」

「そういう例が多かった」
「世の中、うまくいかないですね」

「最近の二十歳は、もうこんな達観した考えをもっているのか」
 卯波先生が顎に手をやり、ぽつりぽつりと呟く独り言。

「これは、考え過ぎだと忠告したことがあるんだが」
 聞いていないことを教えてくれるなんて、院長のことだと、特に饒舌になるね。

 ふだん、口数が少ない卯波先生にとっては、これくらいでも十分に饒舌だと思う。

「宝城にとって、好きな人にプレゼントやごちそうをすることは、賄賂とおなじで不誠実だそうで、そういうアプローチはしない」

 心底、院長のことが大好きなんだ。院長の話になると、やっぱりとたんに口がほぐれて、滑らかになる。

「好きな人からプレゼントやごちそうだなんて、嬉しいですよ。賄賂だなんて思わないですよ」

「未経験のくせに、まるで恋愛経験があるような話しぶりだ」

「あ、ありますよ。ありますったら、デートのひとつや二つ」
「わかったわかった、あるある」

「なだめないでください。私、もうデートするほど、おとななんですから」

「あれほど、おとなは自分のことを、おとなとは言わないと」

「絶対に言いませんか? 世の中に絶対はありません。だから、おとなでも自分のことをおとなって言う人もいます」

「負けず嫌いだな」
 卯波先生が視線を斜めに移し、大きく短い息をひとつ吐いた。

「ムキになるところが、まだ子どもなんだよ」
 なんて言ったのかな。吐いた息に混じった声だから、聞き取りにくい。

 身を乗り出してみたけれど、わからなかった。

「宝城は、好きな人に尽くす方法で、口説き落としたりはしない」

 なんでも知っているように断言した。じゃあ、どうやって恋愛が成就するの?

「尽くさないって、院長は女性に尽くさせるとは思えないし、どうするんですかね」

「活力溢れる生活や、精力的に働く姿を見せていく中で、誰かが自分を気に入ってくれたらいいと考えているんだ」

「それじゃあ女性は憧れるだけで終わっちゃいますよ、好きにはならない」

「貪欲じゃない。とでも言うのかも」

 仕事では断言するけれど、こういう話だと首を傾げて憶測で話すんだ。