策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「院長って、ルックスも性格も完璧ですよね。頭もいいですし、笑顔は爽やかです。それに面倒見もいいです」

 私が話し出したら、論文にしおりを挟み、今回も頷きながら耳を傾けてくれる。

「社交的でおもしろいですし、人一倍優しいです。それなのに、どうして彼女がいないんですか?」

 会話のチョイスが卯波先生と私のことじゃなくて、出てきた内容が院長って。

 なぜに院長が頭をよぎった?

 しかも、私の口から出てくる言葉は、テンポがよくて興味津々風に滑らか。

「宝城のことが気になるのか?」

「や、や、いいえ、そういうわけでは。なんだろう、なんでかな、違うんですよ、これは」
 
 ピンと背すじを伸ばして、両手は左右に激しく振って、否定の仕方が派手な、今の私の姿は卯波先生から誤解されそう。

 別に、本当に院長に興味なくて。

 なのに、どうして、前のめり気味に院長の話を聞き出そうとしているのか、自分でも自分がわからなくて不思議。

 気になり、ちらりと前を見れば、どこ吹く風。そんな私の態度なんか眼中にないらしい。

 卯波先生は、頭の中を整理してから話そうとしているようで、ゆっくりと言葉を選んでいる様子。

「昔からモテる割に恋愛経験が少なく、フリーでいることが多い」
「へえ、意外です」

「宝城は、誰にでも優しい。好きな人以外にも優しくする、誠実だ」

「誰に対しても、いつも分け隔てなく優しい院長は、博愛主義者って感じですよね」

「そうだな。好きな人にだけ優しくすることは、宝城にとっては不純なんだそうだ」

 それが不純ね、いろいろな考えの人がいるからね。

 心なしか院長の話になると、卯波先生の顔はいつも嬉しそう。逆もまた然り。

「だから、誰にでも優しくする」
 
「両想いがあったかもしれないのに。女子は特別扱いされたら、なんとなく相手の気持ちに気づくのに」

 あああ、焦れる。他人事ながら、もったいない。

「特別扱いされたいですよ」
「それは、俺に対するアプローチか?」
「違いますよ、違いますって」

 首も両手もバタバタと横に振り、声を上げて猛アピールする。

 いきなり、卯波先生らしくないこと言うんだ。

 ふだんから、人を寄せつけないような、近寄りがたい雰囲気を醸し出しているから、この手の返しに戸惑う。

「卯波先生にアプローチは、断じて違います!」
「認めているような不自然な否定だ」
「ないないない、ないですって!」

 結んだままの唇にかすかな笑いを浮かべる卯波先生に、声にならない声を上げ、なおも必死にアピール。

「言葉は嘘をつくが、ボディランゲージは真実を伝えてくる」

 俯いたのは、余裕ありげに口角が少し上がった微笑みを隠すためなの?

 ちらりと視線が合ったら、卯波先生が気を取り直したように顔を上げた。

 なにか物言いたげな口が開きそう。言って言って、なにが言いたいの?