策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 すぐに準備に取りかかる。

 卯波先生がインコを仰向けにしたら、ぎいぎい、じゅっじゅっと鳴いて抵抗する。

 卯波先生のおかげで、インコの体は動けないから、言われた通りに左足の固定に成功。

「右足は、軽く手を添えてあげて」

 十字の照明の中心を左足にあて、レントゲン撮影は無事に終えて、卯波先生は液晶モニターで患部を確認。

「お疲れ、ありがとう。先に戻るから、後片付けを頼む」

 片付けを終わらせて薬棚の前に行った。

 卯波先生って、犬猫以外にサルや鳥とか、なんでも診察できるんだ。

 インコは、悲鳴みたいな鳴き声を上げて抵抗したから、卯波先生の指は突っつかれて出血しているかも。

「指を見せてください」
 診察後、卯波先生が出てきたから答える前に両手を手に取る。

 やっぱり出血している。これは痛みもあるよ、痛いよ。

「なんでもない、平気だ」
 引っ込めようとする両手を強く握り締める。

「止血しなくちゃダメです。平気じゃない、これは痛いです」
 止血剤を振りかけて絆創膏を貼った。

「はい、終わりました」
「ありがとう。悪くないな、治療される側も」

 涼しげな顔で、スタッフステーションに歩いて行った。

 人には心配性のくせに、自分のことには無関心でお構いなしなんだから。

「院長が診察中なので、そろそろ乳腺腫瘍のオペの子の麻酔をお願いします」

 昼休みの少し前、坂さんが卯波先生に声をかけるのを聞いて、卯波先生の指示待ちなしで隣に駆け寄った。

「なぜ今、麻酔を施すんだ?」
 また、いつもみたいに質問が飛んでくる。

「昼休みに入ったら、すぐにオペが出来るように逆算してです。事前に卯波先生に麻酔の処置を施していただくと効率的です」

 合格だね、満足気に浅く頷かれた。

「で? なぜ、隣に来た?」

「保定のためです。私を呼びますでしょ、呼ばれる前にです」
 来いと顎で合図された。

 処置が終わると、卯波先生はオペの子の様子を見守り、私はオペの準備。

 効率的な仕事ぶりだと、褒めてもらえて嬉しかった。

 簡単なことでも、どれも指示をされる前にできたから褒めてくれたんだって。

 昼休みになり、院長と坂さんがオペに入っているあいだに昼食を済ませて、スタッフステーションを覗いた。

 卯波先生が椅子に深く座り、論文に目を落としていたから話しかけてみよう。

「お疲れ様です、お邪魔ですか?」
「いや」
 すらりと長い持て余す足を組み替え、瞳を覗かせてくる。

「なに?」
 “なにか用かよ”みたいな顔。

「卯波先生と話そうかなあと思いまして」
「ずいぶんと上から目線だ」

「失礼しました、そういうわけではないんです」
 なにを話そう。椅子に座りながら、目が合ったから微笑みかける。

「はなはだしい愛想笑いだ」
 愛想笑いだなんて。これでも嬉しくて笑っているのにな。

 人と目と目が合ったら微笑むのは、サービス業の職業病だとは自覚している。でも、今のは愛想笑いじゃないって。