策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 考えているあいだに、スタッフステーションに行っちゃった。

「どうしたんだよ、魂抜かれたみたいな顔して」
 薬棚の前にいたら、声をかけてくれた院長が不思議そうな顔。

「初めて卯波先生の診察に入って、衝撃が大きすぎて、まだ思考が対処できないんです」

「診察室に入ると、コイツどこの卯波だよってなるよな」 

 それそれそれ! やっぱり院長も思っていたんだ。

「まさに、それです。私、まだついていけないです」
 頭の上の豆電球がひらめいて、パッとついたように気持ちがいい。

「院長と二人のときも、とろんととろける甘い口調や表情のときありますか?」

「ないよ、ゾッとする、よく考えろ」

「ですよね、凄い隠し球を見せられました。動物ともオーナーとも、コミュニケーション能力の高さに驚きました」

「診察室の入り口に、卯波が取りつけた変貌を遂げるスイッチでもあるんじゃないのか?」

 想像したら、にやにやが止まらない。

「笑ったらダメですよね。卯波先生、本当に動物が好きで、オーナーの気持ちも優先して考えてくれるし」

 ギャップのアップダウンに驚き、まだ思考がついていけない。

「カルテがある、次の患畜はなんだ?」

 問診票の棚から、カルテを手に取った院長が、先にカルテに目を落として、隣で覗き込む。

 二人同時に声が出て、笑い転げた。

「インコって、なんてタイミングなの」
「診察は卯波に頼めよ、問診してこい」
「いってきます」
 
 呼吸を整え、頭の中にある仕事のスイッチを押して切り替えて問診をした。

 昨日から片足がつけないそう。

 診察室を出て、スタッフステーションの卯波先生に報告すると、カルテに目を落として颯爽と診察室へ入って行った。

 薬棚の前で待機していたら、鳥かごにインコを入れて出てきた卯波先生。いったい、この子になにするの?

「レントゲン」
 インコってレントゲン撮れるの? 頭の上を何本も飛び交う、真っ赤なびっくりマーク。

 入院室にあるレントゲン台に向かい、卯波先生が撮影の準備を始めたから、すぐにプロテクターを取って渡した。

「ありがとう。最近、言われる前にできるようになってきて、目まぐるしく成長している。しかもレントゲン撮影の経験は、ほぼないだろうに」

 卯波先生に褒められた、素直に嬉しい。

 プロテクターを装着して、インコのレントゲン撮影を興味津々で待つ。

「頭部から上体を持つから、左足にサージカルテープを貼ってカセッテに固定して。先にテープを切って、手もとに貼っておくと効率的だ」

 テープで、カセッテに固定するって本気なの?

「仰向けにするから、サージカルテープを貼って」
 本気なんだ。
「きょとんとしていないで、さあ貼って」