ワクチン注射のシリンジより、輸液用のシリンジは量が多いから、モアが暇な時間を持て余して、いろいろ遊ぼうとするから可愛さに撃沈。
それ以上に卯波先生の変わりように撃沈。正直、モアになりたい。
「モア、今日もいい子だね」
ほら、そのメロメロ甘々でとろけそうな優しい声。モアいいな。
「少し寒暖差でバテたんだね。これで元気になるよ」
「先生に会えたのが一番大きいわね。なんたって、モアの元気の素は先生だもんね、モア」
オーナーがモアに声をかけると、タイミングよく鳴いたから、卯波先生とオーナーが笑い声を上げた。
卯波先生が二度、声を上げて笑った。笑い声は初めて聞いた気がする。
整ったきれいな歯並びの、真っ白な歯を覗かせる笑顔は楽しそう。
貴公子然として歯まで美しいなんて。
いったい天は、この人に二物どころか何物与えたのよ。
「モア、お利口さん。終わったよ、いい子だったね」
手を出す卯波先生の胸もとめがけて、モアが飛び込みしがみついた。
あてられちゃうな、恋人同士みたいで。
「モア、帰る気ある? 病院に泊まって行く? 先生は動物にもモテモテですね」
「いいえ、僕は動物にだけですよ」
モアを胸に抱いて、優しく撫でる卯波先生の瞳がとても優しくて、見守る私までも安心感で包んでくれる。
「ご謙遜なさって。騙されませんよ」
みんな、イケメンに弱いんだ。院長にも卯波先生にも、鎌をかけるオーナーが多すぎる。
「本当です、出会いがないんですよ、獣医は」
「本当ですか? 信じますよ?」
たしかに彼女がいそうもない。ミステリアスだから、よくはわからないけれど。
「それなら、だれかいい人がいたら紹介しますね」
「いえいえ、僕、奥手なんです。お相手を退屈させてしまうので申し訳ないです」
断り方の模範みたいな上手な断り方。
けっこうオーナーから、こういうことを言われるんだろうな。
かわし方が上手で慣れているもん。
というか、オーナーの前では“僕”なんだ。
診察中はオーナーと楽しそうに雑談するんだ。
診察が終わり、別れを惜しむような顔をしたモアを、胸に抱いたオーナーが診察室を出た。
「凄いですね、モアからの愛されよう。同類だと思ってるのかな」
「輸液ありがとう、助かった。よくできたな」
無駄話はしないのか。口調も淡々と抑揚なし。
いつもの卯波先生に戻ったから安心したというか、なんというか。
それ以上に卯波先生の変わりように撃沈。正直、モアになりたい。
「モア、今日もいい子だね」
ほら、そのメロメロ甘々でとろけそうな優しい声。モアいいな。
「少し寒暖差でバテたんだね。これで元気になるよ」
「先生に会えたのが一番大きいわね。なんたって、モアの元気の素は先生だもんね、モア」
オーナーがモアに声をかけると、タイミングよく鳴いたから、卯波先生とオーナーが笑い声を上げた。
卯波先生が二度、声を上げて笑った。笑い声は初めて聞いた気がする。
整ったきれいな歯並びの、真っ白な歯を覗かせる笑顔は楽しそう。
貴公子然として歯まで美しいなんて。
いったい天は、この人に二物どころか何物与えたのよ。
「モア、お利口さん。終わったよ、いい子だったね」
手を出す卯波先生の胸もとめがけて、モアが飛び込みしがみついた。
あてられちゃうな、恋人同士みたいで。
「モア、帰る気ある? 病院に泊まって行く? 先生は動物にもモテモテですね」
「いいえ、僕は動物にだけですよ」
モアを胸に抱いて、優しく撫でる卯波先生の瞳がとても優しくて、見守る私までも安心感で包んでくれる。
「ご謙遜なさって。騙されませんよ」
みんな、イケメンに弱いんだ。院長にも卯波先生にも、鎌をかけるオーナーが多すぎる。
「本当です、出会いがないんですよ、獣医は」
「本当ですか? 信じますよ?」
たしかに彼女がいそうもない。ミステリアスだから、よくはわからないけれど。
「それなら、だれかいい人がいたら紹介しますね」
「いえいえ、僕、奥手なんです。お相手を退屈させてしまうので申し訳ないです」
断り方の模範みたいな上手な断り方。
けっこうオーナーから、こういうことを言われるんだろうな。
かわし方が上手で慣れているもん。
というか、オーナーの前では“僕”なんだ。
診察中はオーナーと楽しそうに雑談するんだ。
診察が終わり、別れを惜しむような顔をしたモアを、胸に抱いたオーナーが診察室を出た。
「凄いですね、モアからの愛されよう。同類だと思ってるのかな」
「輸液ありがとう、助かった。よくできたな」
無駄話はしないのか。口調も淡々と抑揚なし。
いつもの卯波先生に戻ったから安心したというか、なんというか。


