策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 カーテンを開けたまま、心も体も開放的になり幾度となく求め合い愛し合った。

「外気は冬みたいだが、コンマ一秒でアイスクリームを溶かすように桃は赤く火照っている」

 卯波先生の皮膚や呼気からの放熱で伝わってくる、私への強い熱い想いが。

「直に触れると、やけどをするほど熱い」
「火遊びはダメですよ」
「子どもの聞きかじり、俺は桃ひとすじだ」
 ちゃんと意味わかっているもん、卯波先生がそういう人じゃないってことも。

「愛しくてじっとしていられない。卯波先生」
「ダメだ、しゅんとしても」

「せんせえ」
「そんなに甘えた声を出してもダメなものはダメだ、ちゃんと言うことを聞け」

 もどかしさが熱い息となって、かすかに漏れる。

「なんだ、その甘ったるいのは。甘やかしてしまう俺がダメだ。桃にかかると甘々になってしまう」

「少しだけ、ね?」
「少しで済むわけがないだろう」

 仰向けで、私を抱き締めていたと思ったら、上体を起こした卯波先生の目はきらきら輝き、いたずらを思いついた子供みたい。

「桃は俺をその気にさせる」
 卯波先生の笑顔が真剣な表情に変わったから、なにかが起こるって心臓の鼓動がひとつどくんとなった。

 逞しい腕に抱かれている私の胸は、痛いほど強く激しく喉まで響き渡る。卯波先生にも聞こえている?

 いつもは冷静沈着な卯波先生なのに、今は爆発しちゃいそうなくらい、大きな心臓の響きが全身に伝わっている。

 激しい呼気は、やけどしそうなほど熱くなっている肌と同時に、私の全身を熱く包み込む。

 それまで、たくさんたくさん愛され、お互いの愛を贈るように幾度となく重ね合わせた唇。

「猫舌の桃には毒だな。今夜の俺の唇は、なぜだか熱い」
「やけどしてもいい」
「だろうな」

 身も心も天まで昇りつめたと思ったら、卯波先生の燃えたぎる熱情によって、急降下でシーツの波に深く熱く沈み落とされた。
 
「怖いの、溺れちゃう」
 卯波先生にしがみついた。
 目を閉じた瞼の裏に鮮明に光景が浮かび、しばらく余韻に浸った。

「可愛かった」
 さっきまで息遣いが荒かった卯波先生のかすれた声に目を開けた。
「感じている桃の顔が、とても可愛かった」
 伏し目がちの瞳を被うまつ毛が揺れ、頬に長い影を落とす。

 いつもは見せたことがない、ちょっぴり照れくさそうに紅潮した顔は初めて見た。

「こんなこと初めて言ったからだ」
 モテモテの卯波先生が初めて言った言葉が私って。
 たくさんの幸せが満ち足りた気分にしてくれる。

 幸せって優しい気持ちになれるね。

 体から湯気が出ているんじゃないかと思うほど、部屋中が真っ白に曇りそうなくらいに全身が熱い。

「愛慾に溺れた桃は何度も果てていた。溺れかけたように凄い力で、俺にしがみつきながら」

「卯波先生の広く大きな深い海の中に沈みました。海の中は、とても温かくて気持ちよかった」