策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「かもしれないって? 仮定じゃなく確定だ、確実に桃に癒されている」
 整った顔が急に崩れると、喉の奥からくすくす笑い声が漏れてきた。

「明日の朝は、鳥のさえずりや木々の揺れの中で目を覚まそう」

「まだ眠くないです、あともう少し、あそこにいたい」
 卯波先生の腕の中から振り返り、ずっとうしろに見える暖炉を見つめる。

「ダメだ、ここだ。俺の不規則なゆらぎは桃をリラックスさせる」

 にこりとした顔が、すっと近づいてきたと思ったら、羽のように優しくベッドに寝かされた。

「卯波先生は急患で疲れてます」
「俺たちのあいだにあるものを否定することはできない」
「それって?」

「お互いを愛したい感情だ、疲れなんかいとおしい桃を前にしたら、一瞬で吹っ飛ぶ」

 無警戒な正直な目に見つめられたら、もう降参。心臓が早鐘となって胸を突きつづける。

「あの、卯波先生、カーテンを」
 室内が見られちゃう。

「完全なプライベート空間を保てている。二人だけの世界で過ごせる」
 そうは言っても。

「敷地が広すぎて、わざわざ部屋の前を通る人はいない。第一、この時間に庭に出る野暮な者は誰ひとりといない。だから」

 私を覆い包む卯波先生の穏やかな顔が、白い窓から射し込む優しい月明かりに照らされている。

 長く濃い睫毛が頬に長い影を落とし、惚れ惚れするほどきれい。

「桃の肌の白さは、ほのかな月明かりで銀色に光って美しい」

 プレゼントを前にした子どもみたいな高揚した微笑みで、私の体を撫でてくれる。

「人一倍、皮膚の感覚が鋭くなっている」
「私?」
「二人」
 上気して熱く火照る体をよじり、卯波先生の瞳を見つめた。

「人一倍、皮膚の感覚が鋭くなっている俺の手にかかれば、桃の体はあっという間に落ちる、この手で」

「待って」って、お願いする私の口をキスで塞いでしまう卯波先生に、私は何度もシーツの波へと落とされた。

 うっとり甘い気分に浸っていたら、瞳を凝らして見透かす目と目が合った。

「しおらしそうに見せて、いつも自分には罪がないって顔をして」
 温かな眼差しは目尻に優しさを含み、私の瞳を見つめている。

「ずっと、いっしょにいてね」
「桃の想いは叶える」