策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「なにも心配はいらない、泊まっていけと言っていた」

 明日は......
「心配するな、明日はアニマーリアの獣医師が出勤日だ」
「卯波先生はお休みですか?」

「久々の休日だ。そのままだと風邪を引く」
 私の目の前にいた卯波先生が、おもむろに立ち上がると髪の毛を乾かしてくれた。

 どうして、こんなに優しいのかな。安らぎの中で、私の心は満たされていくばかり。

 心の安らぎは卯波先生のおかげ。触れられていれば、日ごろの疲れなんか消えてしまう。

「暖炉にあたろう」
「嬉しい、待ち遠しかったんです」
「俺よりもか?」
 また暖炉に焼きもちなのね。可愛い焼きもちに笑ってしまいそう。

『部屋全体が、ゆっくり深く染み入るように暖かくなる』って、前に卯波先生が教えてくれたように、暖炉は優しく温めてくれる。

 暖炉にあたりながら、幼いころの話や出逢ったころの話。

 それに、今まで何度も話したエピソードを話したり、いつものことで気の早い卯波先生が、私たちの子どもの話をしたり。

 子どものことになると饒舌になるの、院長の話をしているときみたいにね。

 子どもも卯波先生の能力にとっては癒される存在だから、早く欲しいんだと思う。

「ぱちぱちと音を立てながら燃える炎を見ているのは、最高にいいものだ」

 いつまでも見飽きることなく、ほのかな優しい炎を見つめていた。

「音だけでも安らぐ」
 卯波先生が目を閉じて、耳を澄ましているから、私もおなじようにしてみた。

 静寂(しじま)の中を、ぱちぱち音が心地よく聞こえる。
 その瞬間、頬と唇が熱く感じた。

「このセリフで、女子は自然に目を閉じる。手中に収めるのは、いとも容易い」
 耳もとまで熱くさせられた。

「焼きもち妬きます、卯波先生って!」
「しっ、おとなしくするんだ」

 微笑みまじりの声は、動物をあやすときの甘い声とおなじで、私をうしろから抱き締める。

 卯波先生は、さぞかしモテモテでしょう。そんなの百も承知、わかっているって。
 でも、どうしたって卯波先生のことが大好き。

「だろうな」
 ぎゅと抱き締められて、首すじに顔を埋められた。
 ズルい、こんなされたら許しちゃう。

「ゆらゆらと揺れる炎を眺めていると、心が安らぐだろう」
 全身で包み込んでくれる温かな大きな愛も、私の安らぎ。

「初めてキスをした日。こうして抱き締めたら、桃は安心すると言った、だから」

「卯波先生、大好き」
「だろうな」
 耳もとに温かな息が静かにかかり、澄ました声が聞こえた。