策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「卯波先生のお母様が、毎年ヤマモモでジャムとお酒を作ってるって、おっしゃってましたでしょ」

「後日、桃はおふくろに教えてもらって、いっしょに作っていたな」

 できあがったヤマモモのジャムとお酒で、みんなで食事をしたのが昨日のことのように、はっきりと目に浮かぶ。

「真っ青な大空の下で、青々とした木々や色とりどりの花を愛でながらで、とっても気持ちがよかったです」

「口当たりがいいから、桃の酒が進んでいたな」

「卯波先生から、そのくらいにしろって、制止されると思ったら、『俺がいるから安心して飲めばいい』って」

「とろんとした桃の目は驚くことも忘れて、俺の顔をじっと見ていた」
 
 私には、お酒がまだよくわからない。でも、卯波先生といっしょにいながら飲むと、とっても気持ちがいいの。
 
「お酒の味を覚えた気になり、おとなになった気分に浸りました」
「子どもを認めたか、おとなになった証拠だ」
 
 ついこのあいだのことのように、次から次へと甦る思い出。
 心の中にある、幸せのアルバムが何冊も増えていく。

 想い出を振り返ると、たくさんの幸せが満ち足りた気分にしてくれる。

 一日では振り返えられない。幸せって優しい気持ちになれるね。

 ゆったりと優雅な時の流れは、ふだんの生活とは別世界。

 聞こえてくるのは、ささめくような枝の揺れる音や木々の葉擦れの音。

 日中聞こえていた小鳥たちのさえずりも、今は静か。

 物静かで穏やかな卯波先生の話し方は、喧騒とは無縁の豪邸で育ったからなのかな。

 ──心地よく耳に入ってくる──

 ん、卯波先生、スクラブ着ている。ここは、どこだったっけ。
 卯波先生はラゴムじゃないよね、プレーゴの院長だもん。どうしてスクラブ着ているの?

「おはよう」
「おはよう?!」
 ソファーが跳ねたみたいに飛び起きた。ここどこ? いったい何時間眠っていたの?

「相変わらず、肩を揺すったぐらいじゃ起きないな」
 嬉しそうな笑顔で覗き込まれて、髪の毛をくしゃっと一回撫でられた。

 どのくらい眠っていたのかな。
「三時間ほどだ。桃が寝ているあいだに、急患を二件診てきた」

 さっきスクラブだったはず。あれ、今は。っていうか、三時間で急患二件も入るの?

「一件は緊急オペだったから、シャワーを浴びた。だから」
 私のすぐ隣で立て膝をつき、眩しいほどの白いシャツの部屋着の襟を立てて見せてくれる。

「お疲れ様です」
「眠気覚ましにシャワーを浴びたらいい」

 まだ半分眠っているような感覚で、シャワーをお借りした。

 どのくらい眠っていたのかな、外は暗いし帰らなくちゃ。

「今日は、ここに泊まって行く」
 それは、ご両親が......