策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 そういえば、院長が言ってたっけ。『卯波の焼きもちは、相当だから覚悟しておけ』って。
 
 春風に揺れなびく髪に、まだ少し冷たい首すじを、温かく大きな手が包み込み、仰ぎ見る私の唇にも大きな愛が、温かく降り注がれる。

「桜ばかりに目を奪われる桃に、周りの花々も焼きもちを妬いている」

 髪の毛を撫でて、優しくキスをくれた。

 それまでたくさんたくさん愛され、お互いの愛を贈るように、幾度となく重ね合わせた唇。

 雪のように舞い踊る桜の下で、交わしたくちづけは、ファーストキスの甘酸っぱさのように胸がどきどきする。

「やっとです、逢いたかった」
「だろうな」
「もうぅ卯波先生ったら」
 いつものセリフじゃなくて、ちゃんと言ってよ。

「逢いたかったに決まってるだろう」

 ダメなの。改めて言われると、恥ずかしくてたまらない。

「夜な夜な、桃が俺の心に話しかけてくるから、俺は眠れない。毎夜、愛される幸せというやつを実感している」

 言うや否や、卯波先生が私の腰に手を回して静かに歩きだした。

「卯波先生、もう一度お願いします、言って」
「黙って前を向いて歩け」

「せんせえ、はぐらかさないでくださいったら、もう」
 そう言いつつ、顔全体が口みたいに微笑みが溢れて、卯波先生に体をあずけて歩を進める。

 出逢ってからずっと愛しています、寸秒たりとも欠くことなく。

 頭の上から「だろうな」って。
 私の心をいとも簡単に読む、穏やかな声が降り注がれた。

 つつがなく執り行われた、ご挨拶が無事に済んだと思った矢先に急患が入り、ご両親は病院へUターン。

 ソファーにもたれて、ひとつ大きく肩を回した卯波先生。さすがに疲れたかな。

「日中の穏やかな暖かさは、どこへやら。日が暮れるにつれ、寒さが増してきたな」

「暖炉が恋しいです」
「俺よりか?」
 可愛くなるほど、不満げに片側の眉を上げてみせる。

 卯波先生のお気に入りの、この部屋もリビングやダイニングと同じ、丸いアーチ状の真っ白な窓枠の掃き出し窓は、そびえたつような高く大きな窓。

「窓から見える癒しの風景や、プライベートを満喫できることが、俺にとって重要なことだから、この部屋が好きだ」

 ご実家なのに、部屋数を把握していないんだって。どの部屋も卯波先生は気に入ると思う。

 手もとのグラスを見つめていたら、ふと初めてご両親にお会いしたときが、頭に浮かんだ。

「どうした?」