「サニーには会いましたか?」
「まだ会ってないよ、誰?」
「ラゴムの供血犬です」
 説明をしながらサニーの話もして、いつしか卯波先生の話になった。

「ウナミは桃の恋人?」
 プライベートもなにもあったもんじゃない、単刀直入な質問に思わず首が縦に傾く。

「OK、ま、関係ないね」
「戸和先生にはね」
「違うよ、桃とウナミの関係。桃に恋人がいても関係ない」

「なに言ってるの?」
「可愛い顔、顔がいい」
「嬉しくないです、褒めてないです。それって大変失礼ですよ?」

「僕のことをつねってみて。桃が素敵すぎて、僕は夢を見ているはずだから」
「ご期待に応えますよ」

 言うや否や、ブルーのスクラブの上から二の腕をギュッとつねり上げて、スタッフステーションに向かった。

「aiiieee!!!!」
 戸和先生の悲鳴がうしろから聞こえたら、院長が「なにごとだ?」って。

「お願いされたので、つねり上げました。起きてるみたいですが、酷い寝言をおっしゃいましたよ」

「なあ、緒花、お手柔らかによろしく頼むよ」
「はい」
 院長の頼みなら仕方ない。渋々、戸和先生のところに戻った。

「すみません」
「大丈夫、気持ちいい」
 痛かったでしょうに。
 変態なの?
「桃の心、さっぱり気持ちいい」 
 性格のことね。

 受付に行き、予約で真っ黒になっているスケジュール表を見せてからは、次々に患畜が押し寄せ、午前の診療終了。

 立ちっぱなしで棒のようになった足を引きずりながら、スタッフステーションの椅子にストンと腰かける。

 戸和先生が、淡々とそつなく診察をこなしていたから、とりあえず安心した。
 院長も坂さんも、ホッとしたみたい。

 隣を見れば磁石みたいに、常に戸和先生がいるから安らぐ暇がないかなあ。
 目と目が合ったから愛想笑いをした。

「戸和先生、和食は大丈夫ですか?」
 エプロン姿の坂さんが問いかける。

「好きです、オーストラリアでも食べてました」
「それなら、お昼ご飯チャチャッと作っちゃいます」
 手際よく支度を始める坂さんの姿を目で追っていた戸和先生が凝視してきた。

「なにしてるの?」
「私は料理ダメだから後片付け要員です」
「しないの?」
「する必要ないから」
 卯波先生が作るの好きだし、得意な人がするのが合理的。

「桃、気持ちいい」
「性格がさっぱりしてるっておっしゃってください」
「どうして?」