策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 相当進んだってことは、けっこうな時間眠っていたってことかな。

「その通り、よく寝ていた。ぴくりとも動かなかった。気疲れもあっただろうし、体も疲れたんだな」

「お昼寝しないんですか?」
「しない」
「お昼寝すると気持ちいいのに」
「あれは昼寝の範疇ではない」
 ふんと鼻を鳴らして笑う。なにが、おかしいの。

「資料作成を、つづけてください」
「お腹がすいているだろう?」
「すきました、お昼寝したからかな」

「脳を駆使した俺よりも、昼寝をした桃が空腹になるのか」
 キッチンへ行く、うしろ姿を微笑みながら目で追う。

「夕食の支度は、さっき初美さんが持たせてくれた料理を、温めて盛りつけるだけだから早い」

「持たせてくれた料理は好きなものかな、せい坊っちゃまの」
「手を動かせ、箸を並べろ、自分の飲みものは自分で」
 また小言が始まった。

 言う通りに準備してテーブルに座ると、手際よく次々に料理が運ばれてきた。

「いい香り、食べ物や飲み物の香りも快適なんですよね」
「ああ、快適だ」

 席につく顔が満足感いっぱい、大好きなメニューばっかりだって。

 大好きな料理を、すぐに作って持たせてくださるなんて、さすが。

 初美さんみたいに、先の先まで気配りできないと、名家でお手伝いさんはできないね。

 それぞれのメニューにまつわるエピソードを、嬉しそうに話してくれた。

 久しぶりに、二人で和やかな夕食の時間を堪能して、片付けを終えてソファーでくつろいで、また今日のできごとを振り返った。

 とにかく卯波先生といっしょにいられることが嬉しくて、溢れる想いが言葉になって止まらない。

 そんな私の話を、卯波先生は相変わらず、ふんふん頷いて相槌を打って聞いてくれるから、気持ちよく口が滑らかになる。

 しばらく聞いていてくれたけれど、少し相槌が流れるみたいに、曖昧になってきた。

 代わりに瞳は、視線を外すのを惜しむように、熱く注いでくるから、恥ずかしさで俯いてみたりしながら話をつづける。

「そんなに見つめないでください、もう、どうしたらいいかわからない」

「しっかりとわかっているだろう?」
 徐々に近づいてきた卯波先生の顔に、私の瞳は自然に閉じる。

「ふつうのことでも、二人でいるから幸せだ」

 私の頬を、両手で包み込む卯波先生に安心していると、焦らすように温かな体温が唇に柔らかく触れる。

 今までの時間を取り戻すように、時間も惜しまずに、お互いに求め合った。

「今日は、ここまでだ。もう、こんな時間か、送る」
 すっと顔と上体を離して、頭を撫でてくる顔は、あっさりしたもの。