策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「卯波先生のマンション、うちに帰って来たみたいで落ち着きます」

 ぺたんとフローリングに座ると、歩いて来て火照っている足がひんやりする。

「羽衣ジャスミンが萎れてきそうだ」
 私の隣にしゃがみ、編み込みをほぐして羽衣ジャスミンを取ってくれた。

「いい香りだな、グラスに生けてあげよう」
「ありがとうございます」

 可憐な姿に似合わず、一輪でも甘い香りを放つ自己主張の強さ。

 卯波先生が教えてくれた言い伝えは、私たち二人の愛の証し。記念に押し花にしよう。

「まだ夕食には早い、ゆっくりしていろ」
「ありがとうございます」
 窓を開ける卯波先生の背中を見届けて、冷えたフローリングに体をくっつけるように横になった。

「冷たくて気持ちがいいのか?」
「はい」
「子猫が喉を鳴らすような甘ったるい声を出して。エアコンを入れるか?」
 首を横に振る、もう睡魔の限界がきた。

 冷えた感じがちょうどよくて、少しずつ意識が遠のいていく。

「寝たのか、この種の人間に遭遇したのは、初めてだ」
 しみじみ呟く声が、うつらうつらしながらも聞こえてくる。

 体が温かい。
 ハッとしてフローリングから飛び起きて、体裁を取り繕い、何事もなかったかのように座った。

 なんだ、卯波先生いないのか。

 毛布をかけてくれたんだ。両手で抱えて鼻に埋めてみたら、卯波先生のいい香りに包まれて落ち着く。

 卯波先生。

「まるで母犬の匂いに安心する子犬のようだ。心の中の呟きにさえ、俺の名を呼ぶとは光栄の至り」

 私の視線は、頭上から降ってくる声の方を仰ぎ見てから、ぐるりと部屋を見渡して、改めて卯波先生に視線を戻した。

「息を凝らして見入って、どうした」

 手が届く距離に立っている卯波先生の、頭のてっぺんから爪先まで舐めるように視線を這わせたんだけれど、まだ信じられなくて。

 もしかしたら、まだ実際は眠ったままで、今の景色は夢の中じゃないのかな。
 長い長い、とても長い夢がつづいているのかも。

 卯波先生が、私の目の前にひざまずく。
「触れてごらん」
 差し出す右手を、両手で包むようにして触れた。

 よかった本物だ。

「桃は、俺にとって運命の人だから、絶対に手離さない」
 こんなに幸せな気分になったのは、生まれて初めて。

 上がった口角にくっつきそうなくらいに、下がった卯波先生の目尻は、溢れんばかりの優しさで私の瞳を覗き込んでくる。

「どれくらい寝てましたか?」
「俺に、どきどきして」
「それ以上、私の心を読まないでくださいったら、恥ずかしいんです」

 全身の血液が、顔に集まってくるのを感じるくらい頬が熱くてたまらない。

「学会の資料作成が、相当進むほど寝ていた」

 話しながら、そっと頬に触れて、撫でてくれたしぐさが自然だから、かっこよすぎて、にやけそう。