策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 今日一日で、次から次へといろいろなことが起こって、一時間が一秒みたいに時間は、あっという間に経ったと感じる。

 昼食の話や、ご両親のことやセンターのこと。竹さんや根崎さんや初美さんのこと。

 止まらない私の感想に頷いたり、タイミングよく相槌を打ってくれるから、気持ちよくて口が滑らかになる。

「卯波先生の小さなころの夢は、なんでしたか?」
「庭師だ」
「竹さんの影響ですか?」
「ああ。竹さんからは、たくさん教わった。それに植物も好きだ」

「植物の気持ちは理解できますか?」
「植物はわからない。もし理解できたら、どうなると思うか」

 頭から考えを振り払うように、ゆっくりと頭を振っている。

「楽しいと思います」
 楽しいってば、なにを話しかけてくるのかワクワクする。

「この数えきれないほどの花々は、まるでにぎやかな宝城と桃のようだ。この花々に朝から晩まで話しかけられたら、いくらタフな俺でも疲労困憊する」

 身も心ももたないって、卯波先生が頭を抱えそう。

「院長と私か、わかりやすい例えですね」

「自分のことを言われているのに、なんて能天気なんだ。植物へのエンパス体質は、なくてよかったと心底思う」

 凄く実感がこもる安堵の表情は、少し複雑な呆れ顔で、伏し目で私と目を合わせてくる。

「無理なく自然体でいられるときに、最高に才能を発揮する」

「ここは最適な環境ってことですね」
「ああ。それに、すぐ隣には桃がいる」
 ぎゅっと手を握ってくれた。

「園路の門が見えてきた、もう今日は十分か?」
「ありがとうございます、たくさん見られて嬉しいです。また連れて来てくださいね」

「宝城とじゃなく俺とだ」
 卯波先生のお母様が、おっしゃったことを気にして焼きもち妬いて。

「そうじゃない、宝城は忙しいから悪いだろう?」
 また心を読む。

「私から、院長に卯波先生のお母様の話をして、いっしょに行けるか聞いてみます」

「しつこい、だから宝城は多忙だ」
「わかりました、また連れて来てくださいね」
「ああ、わかった、そんなに言うのなら」

 プライドの高さは、エベレスト級なんだから。

 園路の門を出て、敷地内の道路に面した場所まで来たら、広大な駐車場と大きな建物が目に飛び込んできた。

「桜並木以外にも、まだ驚いて動けないことがあるのか。蟹のように、今にも泡を吹き出しそうだ」

「アニマーリア動物高度医療センターですね、大きいどころじゃなくて巨大」

「ただの三階建てじゃないか」
 
 呆然と立ち尽くす、私の隣から、ぽつりぽつりと呟く声が聞こえた。

「規模が違います、規模が。間口の広さが尋常じゃない。いったい普通の三階建てが、何百個入る間口なの」

「大げさだ。敷地には、宿直室や独身寮も完備されている」

「はあ、そうなんですかあ」
 広大すぎて、ぽかんとしていそうな口から出る声は、ふんわりする。

「心配するな、分院はラゴムと同等の規模だ」

 卯波先生は、さっき卯波先生のお父様に説明した通り、センターの外観だけ見せてくれて、卯波先生のマンションに帰って来た。