策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 年上の男性に対しても、母性本能って芽生えるんだって初めて知った。

 卯波先生といると、私の中のいろいろな私を発見できる。
 
 しばらく草花を見ていたら、置いて行かれたから、ゆっくりと前を歩く卯波先生のうしろを追いかけて、シャツの裾をつまんだ。

「先生、先生、卯波先生」
「どうした?」
 卯波先生が、自然に手をつないでくる。

「卯波先生のお母様が熱狂してましたが、院長って本当に高嶺の花だったんですか?」

「女子からは、高嶺の花と言われていた」

 卯波先生が当時を思い起こすように、遠くの木々を見つめながら、ゆっくりと歩を進める。

「高嶺の花は当然、卯波先生もですよね?」
「ご想像に任せる」
 視線はまっすぐ、澄ました顔はクールに決め込む。

「嫌です、想像したくありません、焼きもち妬いちゃう」

「それなら想像はしないほうが賢明だ、精神衛生上的にも」

 きれいなEラインを仰ぎ見れば、宙に目を左右に這わせ微かに口角を上げ、余裕ありげに笑みを浮かべる。

「それもう答えを言ってるのとおなじです」

 膨らました私の頬を、しなやかな人差し指が軽く突っついてくる。

「結局、焼きもちを妬くことになった。過去に焼きもちを妬いてもきりがない」
 きりがないって、自分で言う。

 芸能人並みに相当騒がれていたって、嫌でも想像できちゃう。

「この指先も腕も肩も、卯波くん卯波先輩って、べたべた触られてたんだ」

「独り言か、それにしては大きい声だ。べたべたなんて触られない、俺は」

 俺は(・・)を強調する。焼きもちに待ったをかけたみたい。

「院長は、あの調子だから取り巻きが凄かったんじゃないですか?」

 院長なら、べたべた触られてしまいそうで想像したら、にやにやしちゃった。

「俺の分まで引き受けるように」
 話の途中で思い出して吹き出している。

「あいつは群がられ触られ、もみくちゃにされていた」
 楽しそうに笑い声を上げた。

「二人とも物心ついたときから、周りからも知らない人たちからも、芸能人並みに騒がれたんでしょうね」

「海外旅行に行ったときは、日本の芸能人だと騒がれ取り囲まれた。どんどん騒ぎが大きくなって、一時周辺がパニックになったこともあった」

 懐かしそうに困った顔をして、口もとには複雑な苦笑いを浮かべている。

 本当に芸能人並みに騒がれたことがあるんだ、冗談みたい。

「街で女性とすれ違うと、わざわざ戻って来て、追い抜きざまに振り返られ、顔を見られ微笑まれる、今でもだ」