策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「本当に桃は、人の懐に入り込むのが上手だな」

「桃ちゃんは天真爛漫で、ご両親からたくさんの愛情を注がれて育ったのがわかるよ」

「親孝行して大切にしような、親は尊い」

「まさか晴明の口から、そんな言葉が出るとは。初めて聞いたよ、どうした風の吹きまわしだ?」

 首が前に出る勢いで、大きな目をギョッと見開いて、卯波先生のお父様ったら驚いていらっしゃる。

「晴明から嬉しい言葉を聞けたのは、桃ちゃんのおかげね、ありがとう、こんなこと言う子じゃなかったのよ」

 卯波先生のお母様も、やっぱり信じられないという顔。

「さて行くか」
 お二人の視線に照れくさくて、間が持たないのか卯波先生が腰を上げた。

「もう行くの? ゆっくりしていったら?」
「昼食前に庭を散策して来て、まだ桃が行きたがっている」

「散策してから、うちでゆっくりしてればいいじゃない、夕食はいっしょに」

「若い二人なんだ、しつこく引き止めるのは野暮だよ、ここはスマートにね」

 ダンディーな卯波先生のお父様が笑顔を浮かべて、私を見ながら肩をすくめた。

「近いうちに遊びにいらっしゃいね」
「わかった、また桃を連れて来る」
「よろしくお願いします」

「待ってるわね、ところで桃ちゃんも花が好きなの?」
「はい、大好きです。だから、お庭が気に入って連れて行ってほしいんです」

「晴明も草花や木々が大好きでね、物心がついたときから、いつも竹さんのあとをくっついていたよ」

「よかったわね、自然が好きな子で」
「ああ」

 卯波先生のお母様が優しく問いかけるのに、卯波先生ったら素っ気なく返事をしながら、窓の外に視線を移して。

 でも頬が少し緩んでいるよ、本当は凄く嬉しいんでしょ。

「今の時期は、いろいろな草花が咲き匂い、お庭中からは、とてもいい香りがしますね」

「桃は匂いに誘われて、あちこち飛び回るから、危なっかしくて仕方がない」

「それは晴明が小さなころの、お母さんの口癖だったよ、傑作だ」

 太ももを叩きながら笑う姿が、楽しいと伝わるから、私の顔にも笑顔が溢れる。

 隣に座る卯波先生も、きっと笑顔でしょ。二ミリくらい口角が上がる笑顔ね。

「ヤマモモが、もうすぐ真っ赤に実りますね」
「晴明が生まれたときに植えた記念樹なのよ」

「卯波先生が教えてくださいました」
「ほとんど自分のことを話さないのに、珍しいわね」