策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「センターを見学して行くかい?」

「家や庭を見て驚いている。これでセンターなんか見学させたら知恵熱を出す、外観だけ見せて行く」

「残念だなあ」
 卯波先生のお父様の眉が八の字に下がり、口角は微かに上がった。

 失礼ながら、語尾を伸ばす言い方が可愛らしい。

「センターは、人間の総合病院や大学病院のように、高度な医療設備や多岐にわたる診療科、多数のスタッフ、すべてが充実している。桃ちゃんもCTやMRIで健診するかい?」

「親父、なんてことを。真に受けるから、おもしろがってからかうなよ。な、桃、本当に宝城みたいだろう?」

「イケメン聡一郎(そういちろう)くんは元気? 最近、会ってないから、お母さん寂しい、連れて来て」

 美人の卯波先生のお母様に瓜二つの卯波先生も、院長に劣らず相当な美形のイケメンですよ。

「前みたいに頻繁に来させて、あなたはいいから」
 卯波先生のお母様、息子をバッサリ斬り倒す。

「宝城だって学会や勉強会やセミナー、その他諸々多忙なんだ」
「その他諸々って?」

「俺に聞くなよ。おふくろは、いつものを気にしているのか、宝城は相変わらずだ」

 いつものってなに、院長のなにが相変わらずなの?

「女っ気がないところだ」
 わお、何時間ぶりかで心を読まれた。

「学生時代から変わらないわね。聡一郎くんは高嶺の花だから、どの女性も見てるだけで幸せなのね」

 卯波先生が高嶺の花なのは、見て接してわかる。
 卯波先生じゃなくて、院長が高嶺の花って呼ばれていたの?

「院長、ひとりで遊びにいらっしゃるんですか?」
「ええ、そうよ」

 卯波先生のお母様の顔からは、隠しきれない嬉しさが、抑えきれずに笑顔になって弾んでいる。

 ひとりでも遊びに来るって、明るくて人懐こい院長らしいな。

「きみは、宝城くんの大ファンだからね。遊びに来ると聡一郎くん、聡一郎くんって。まるでアイドルに憧れる可憐な少女だ」

「少女だなんて言いすぎですよ」
「言いすぎじゃないよ、僕にとってきみは、いつまでも少女のように可愛らしい」

 楽しそうなお二人の姿を目の当たりにして、無意識に頬がゆるゆるに緩んじゃう。

 卯波先生の甘いあまいとろけるセリフは、卯波家男子の血統なのかも。

「以前、桃に話したんだ、親父とおふくろは、宝城と桃みたいだって。にぎやかで、そっくりだ。四人とも、よく口が疲れないな」

「桃ちゃんも、こっちの人間かい?」
「はい、おっしゃる通りです」
 隣で鼻を、ふんと鳴らして小さく笑う声がする。