策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 私のことを、心から歓迎してくれているご両親に深く頭を下げて、卯波先生を見たら包容力のある優しい微笑みで、私の笑顔を受け止めてくれた。

「ただひとつ、一般家庭とは違うことがあるんだよ、いいかい、桃ちゃん」

 三人の視線が私に集まるから、何事かと驚いた背すじが、ぎりぎり限界まで伸び切ろうと、ぴくんと伸び上がる。

「心配はいらない、力を抜いて」

 そっと私の腰に腕を回し、耳もとで囁く卯波先生の声で、私の体から力が抜けて楽になった。

「一族で飛行機や電車には同乗しない、宿泊は違うフロアなんだよ」

 卯波先生のお父様の言うことが、よくわからなくて視線が泳いで、次の言葉を待つ。

「もしも事故や火事に遭遇して、一族の血統が途絶えてしまわないようにという理由からなんだよ」

 噛んで含めるように説明してくれる。

「代々、家を継ぐ者は同乗して移動しないし、同じフロアには泊まらないのよ。だから晴明は家族旅行でも、お父様と同乗は(おろ)か、寝たことさえも一度もないのよ」

「かわいそうだが、家を継ぐ者の定めだから従っていくんだよ」

「場合によっては親父と桃、おふくろと俺で同乗する」
 頭によぎることがあり、背筋がピンと伸びた。

「桃、勘違いするな、宿泊する部屋は俺と桃だ」
「傑作だ」
 会話が取って変わり、笑い声に包まれた。

「ああ、びっくりした、そうですよね」

「晴明と桃ちゃんが結婚して、例えば男児が生まれたら、晴明は息子とは同乗しないで、宿泊も違うフロアになるの」

 卯波先生のお母様の目が、お願い理解してねと、私に訴えてくる。

「わかりました」
 資産家は、血を途絶えさせないために大変なんだ。

「しっかりしろ、他人事じゃない、桃は卯波家の一族になるんだ」

「プレッシャーをかけてはいけません。ゆっくりと馴染んでいくものなのよ、わかった?」

「わかったよ」

「拗ねるとは、晴明も可愛いところがあるんだな」
 卯波先生のお父様が、場の空気を和ませてくれた。

「そうだ桃ちゃん」
 なにかをひらめいたように、卯波先生のお父様が前屈みになって、にこって。