策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「青マークにチェック」
「正解」
 後半は安心したようで、大きな息が漏れ伝わってきた。

 あまり表情を変えない卯波先生にしては、珍しく顔に出たから貴重。

「麻酔から覚めるとき、チャロがふらつくから様子を見ている」
「はい」

「ふらつきが治まるのは、約何時間?」
「約二時間」
「正解、オペの片付けと」
「器具の洗浄、消毒、滅菌です」
 自信をもって、かぶせて言った。

「これは完璧なんだな。ありがとう、よろしく」
 またいつもの口調に戻って、抑揚が少なく淡々としてきた。

 卯波先生の質問には、打てば響く返しができたと思う。

「お腹すきましたよね」
「初めてオペを見たって言ったよな?」
「はい」
「それで、よくすぐに食べようと思えるな」

 呆れたように顔を歪ませ、神経質そうに頬がぴくりと動いた。逆にどうして食べられない?

「神経回路が雑な造りなのか? 今まで遭遇したことがない、不思議な思考回路の持ち主だ」

 自問自答のようにぽつりと漏らし、眉間に深いしわを寄せる顔。美形って、崩れてもきれいな顔面なんだなあ。

 それどころじゃない、早く終わらせないと。

 卯波先生を置いて、オペ室の後片付けを始めた。
 今日の院長は、坂さんと組んで犬の乳腺腫瘍のオペ。

 私が昼食を終わらせたころに、院長のオペが終わったみたいで、スタッフステーションに行ったら、院長がくつろいでいた。

「お疲れ様です」
「お疲れさん、オペの見学はどうだった?」

 見学のことと、あれやこれやの話をしたら、躍り上がるように膝頭を叩いて笑い声を上げられたんだけれど。

「卯波は? なあ、卯波は?」
 ひいひい笑いながら、そのときの卯波先生のことを聞きたがる。

 口を開けば卯波、卯波って、本当に卯波先生のことが大好きなんだね。

「卯波、おかしかったんだよ。それ、あいつ笑ってたよ。緒花、すげえ強者だな」
 なにがツボったのか、凄く笑われる。

 前屈みで私の話に食いついていた院長が、椅子の背もたれに背中をあずけた。

 散々、笑って気が済んだでしょ。
「しかし、緒花最高だよ」

 思い出し笑いが止まらないって院長が笑っていたら、卯波先生が来て、われ関せず澄ました顔をして座った。