名前を覚えたはずなのに、わざと眼中にないかのような言い方をして、なんて人なの、ひどい。
「前にも話したよな。卯波にとって妹みたいな存在なんだよ、美砂妃ちゃんは」
重い空気を変えようと、院長が気まずさを解消して取り繕う。
「晴明くんのおじさまとおばさまとも話し合いが進んでるわ」
生きいきときらきら輝く瞳の美砂妃さんが、聞いてもいないのに、院長に視線を馳せて話し始める。
「ね?」
下からすくい上げるような、甘えた目つきで卯波先生に同意を求める美砂妃さん。
「ね、晴明くん」
無反応な卯波先生は、あてもなく遠くを見ていて、その目には意思も感情もない。
「話し合いって、なんの?」
不思議そうな顔をした院長に、鼻で笑う美砂妃さんが答えた。
「わかってるくせに言わせたいのね」
美砂妃さんが挑発するような笑顔を浮かべ、もったいぶって、間を開けて焦らしてくる。
わざと息詰まるような緊張した沈黙を作り出して、楽しんでいる美砂妃さんの威圧的な態度に、プレッシャーで押し潰されてしまいそう。
「晴明くんとの結婚式」
笑顔が真顔に変わり、ゆっくりとした口調で美砂妃さんが言ったら、驚いた顔の院長が卯波先生に視線を移した。
「本当なのかよ」
院長が眉間と鼻にしわを寄せ、卯波先生と美砂妃さんを等分に見ている。
「ああ、彼女の言う通りだ」
卯波先生が、微かに眉毛と口角を上げた。
嬉しいはずでしょ。それなのに、どうして寂しく瞳を揺らすの。
もっともっと幸せな顔して嬉しそうに笑ってよ。
そうしたら諦めがつくから。
「どうしてだよ」
がっくりと肩を落として俯いた院長が、苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
美砂妃さんには、まだ足りないの? もっと私を落としたいの?
心の奥底から、かき回されるように哀しみが沸き起こり、心の中が哀しみを訴えて泣き叫ぶ。
喪失感。そんな言葉が霞むほどの絶望感に襲われ、突き落とされた。
「晴明くん、大変、顔色が優れないわ」
「徹夜つづきだった」
「早く帰りましょう、うちの車を呼ぶ?」
「や、いい、行こう」
「コントロールしてください! もう読み取らないで苦しまないで!」
「この方は大丈夫? なにをおっしゃっているの?」
「俺にもわからない、行こう」
「卯波先生!」
卯波先生に触れる、ほんの手前で美砂妃さんに手を振り払われた。
「彼に、いっさい触れないで。晴明くんは体調が優れないのよ、二度と彼に近づかないで」
「前にも話したよな。卯波にとって妹みたいな存在なんだよ、美砂妃ちゃんは」
重い空気を変えようと、院長が気まずさを解消して取り繕う。
「晴明くんのおじさまとおばさまとも話し合いが進んでるわ」
生きいきときらきら輝く瞳の美砂妃さんが、聞いてもいないのに、院長に視線を馳せて話し始める。
「ね?」
下からすくい上げるような、甘えた目つきで卯波先生に同意を求める美砂妃さん。
「ね、晴明くん」
無反応な卯波先生は、あてもなく遠くを見ていて、その目には意思も感情もない。
「話し合いって、なんの?」
不思議そうな顔をした院長に、鼻で笑う美砂妃さんが答えた。
「わかってるくせに言わせたいのね」
美砂妃さんが挑発するような笑顔を浮かべ、もったいぶって、間を開けて焦らしてくる。
わざと息詰まるような緊張した沈黙を作り出して、楽しんでいる美砂妃さんの威圧的な態度に、プレッシャーで押し潰されてしまいそう。
「晴明くんとの結婚式」
笑顔が真顔に変わり、ゆっくりとした口調で美砂妃さんが言ったら、驚いた顔の院長が卯波先生に視線を移した。
「本当なのかよ」
院長が眉間と鼻にしわを寄せ、卯波先生と美砂妃さんを等分に見ている。
「ああ、彼女の言う通りだ」
卯波先生が、微かに眉毛と口角を上げた。
嬉しいはずでしょ。それなのに、どうして寂しく瞳を揺らすの。
もっともっと幸せな顔して嬉しそうに笑ってよ。
そうしたら諦めがつくから。
「どうしてだよ」
がっくりと肩を落として俯いた院長が、苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
美砂妃さんには、まだ足りないの? もっと私を落としたいの?
心の奥底から、かき回されるように哀しみが沸き起こり、心の中が哀しみを訴えて泣き叫ぶ。
喪失感。そんな言葉が霞むほどの絶望感に襲われ、突き落とされた。
「晴明くん、大変、顔色が優れないわ」
「徹夜つづきだった」
「早く帰りましょう、うちの車を呼ぶ?」
「や、いい、行こう」
「コントロールしてください! もう読み取らないで苦しまないで!」
「この方は大丈夫? なにをおっしゃっているの?」
「俺にもわからない、行こう」
「卯波先生!」
卯波先生に触れる、ほんの手前で美砂妃さんに手を振り払われた。
「彼に、いっさい触れないで。晴明くんは体調が優れないのよ、二度と彼に近づかないで」


