策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 私の気持ちとは裏腹に、久しぶりに逢ったのに、卯波先生は目も合わせてくれない。

 別れたんだからと言われたら、それまでか。

 焦れたように、いらいらと落ち着かない美砂妃さんが、自分に注目を集めるように、微かに聞こえる可愛らしい咳払いをひとつした。

 あっ、卯波先生のことばかりに目がいって、すっかり忘れていた。

 美砂妃さんに視線を向けると、待ってましたとばかりに近しげに卯波先生に寄り添い、挑発するような嫌な目つきを執拗に注ぎ、牽制してくる。

「久しぶり、いつ帰国したんだ?」
「体調は、体調は大丈夫ですか?」

 美砂妃さんに声をかける院長の言葉を遮った私は、どうしようもない衝動に駆られて、卯波先生に詰め寄っていた。

「人が話してるのに失礼な方ね。おまけに女性なのに声を張り上げて。しかも強引に近づいてきて」

 美砂妃さんの軽蔑の眼差しが、横から突き刺さるけれど、私の心は卯波先生の体調のことで、いっぱいいっぱいになってしまい、爆発しちゃいそうなの!

「体調は大丈夫ですか?」
「あなたには関係ない」

 血も騒がないような冷静な顔で見下ろしてきて、素っ気なく答えた返事は桃じゃなくて、あなたと言った。

 初めて、あなたと呼ばれた。

 最初から呼んでいた緒花くんでさえ、もう呼ばないんだ。
 他人だと突きつけられた。

 それでも食い下がらずにはいられない衝動が、私を突き動かす。

「卯波先生、感じてますよね」

 詰め寄る私に上体をうしろに反らして、卯波先生が()けた。
 嘘、卯波先生が私に顔を背けた。

 しかも、命の宿っていない冷々(ひやびや)とした軽蔑した目つきで見てから。

「ねえ、感じてますよね!」
「彼が嫌がってるからやめてくださる?」

 美砂妃さんが、卯波先生の腕に絡みつけている腕を自分の胸に引き寄せる。

 私の腕が。

 毎日、家に帰りたくなる私の家だった卯波先生の腕が。
 もう私の家はなくなったんだ。

「さっきの話ね。帰国は、とっくよ。それよりも聡一郎(そういちろう)くん、彼女を紹介してくださってもよろしいんじゃなくて?」

 院長の名前も呼ぶほど親しいの?

「うちの動物看護師」
「初めまして、緒花です」
 よろしくもお願いしますもいらない。

 美砂妃さんに頭なんか下げたくないし、微笑みたくもない。

「彼女は」
「彼女は守沢 美砂妃さん」
 院長の言葉を遮り、卯波先生が開く口は、事務的な冷めたひんやりした口調。

 口先だけの言葉は上の空な感じで、卯波先生の心が見えない。
 感情はどこへ置いてきてしまったの?

「よろしくね。緒花さん? だっけ?」

 美砂妃さんが、二重瞼をわざとらしく見えるまで開いて、真紅の唇を歪ませ、ほくろを見せつけるように口角を上げる。