初めて逢った日のように、見失わないように必死で卯波先生の姿を目で追い、いつでも駆け寄れるように、つま先に力を入れる。
早く青になってよ! 双眼鏡を逆に覗いたように、卯波先生が遥か遠くの景色に溶け込んでいってしまう。
「飼い主に置いてかれた子犬みたいだな」
和ませてくれる院長の表情は柔らかな笑顔だけれど、飛び出す勢いの私を掴む腕は、固くて振りほどけない。
青信号になると、院長が素早い身のこなしで道行く人を交わしながら、雑踏に紛れた卯波先生を追いかける。
今度は双眼鏡をちゃんと覗いたみたいに、卯波先生の懐かしい背中が、ぐんぐんぐんぐん近づいてくる。
「声かけないんですか?」
もうすぐそこ、息遣いが聞こえてきそうな距離に卯波先生はいるよ?
「この人並みで声をかけたら、緒花がゆっくり話せないだろ、もう少し我慢しろ」
キャメルカラーのコートの裾をなびかせながら、颯爽と前を歩く院長。
「立ち話ができるところまで行ってから、声をかけるから落ち着け」
私のために考えてくれているんだ。
人並みが途切れた街角で、院長が満を持して卯波先生に声をかけた。
大好きな卯波先生に、今すぐに駆け寄りたい。
院長の声に振り返った卯波先生。
いったいどうしちゃったの。
夢じゃないかと、息もつけないほど驚いた。
夢じゃないかっていうのは逢えたからじゃなくて、卯波先生の変わりように驚いてしまった。
だって目の焦点は合っていなくて、意思も感情も捨ててしまったような眼差しは生気を失い、目に光がない。
どうして、こんなになってしまったの?
「どうしたんだよ、その顔。まだ本調子じゃないのか? 病院には行ったのか?」
真剣に訴えかける院長の目つきは、説明を求めるように卯波先生を見ている。
しょっちゅう連絡を取り合っている院長でさえも、瞬きを忘れて驚いている。
「心配することはない。相変わらず、俺のことになると大げさだ」
笑ってごまかさないでよ。憔悴の跡は目の下にも薄黒く残っているよ?
倒れたって聞いているんだから、わかっているんだから。ねえ、卯波先生ったら。
遠くに視線を馳せるようにして、ちらりと近くの卯波先生を見つめた。
私の目に映る卯波先生は、なにも考えていないような、心の拠り所がなにもないような、空っぽな眼差し。
感情も思考も閉ざされ、自由に羽ばたくことなどできない鳥のようで、顔つきには魂が宿っていない。
どうして。どうして、こんな抜け殻になってしまったの?
私は、ずっとずっと逢いたかった。その想いだけを胸に抱いて生きてきた。
早く青になってよ! 双眼鏡を逆に覗いたように、卯波先生が遥か遠くの景色に溶け込んでいってしまう。
「飼い主に置いてかれた子犬みたいだな」
和ませてくれる院長の表情は柔らかな笑顔だけれど、飛び出す勢いの私を掴む腕は、固くて振りほどけない。
青信号になると、院長が素早い身のこなしで道行く人を交わしながら、雑踏に紛れた卯波先生を追いかける。
今度は双眼鏡をちゃんと覗いたみたいに、卯波先生の懐かしい背中が、ぐんぐんぐんぐん近づいてくる。
「声かけないんですか?」
もうすぐそこ、息遣いが聞こえてきそうな距離に卯波先生はいるよ?
「この人並みで声をかけたら、緒花がゆっくり話せないだろ、もう少し我慢しろ」
キャメルカラーのコートの裾をなびかせながら、颯爽と前を歩く院長。
「立ち話ができるところまで行ってから、声をかけるから落ち着け」
私のために考えてくれているんだ。
人並みが途切れた街角で、院長が満を持して卯波先生に声をかけた。
大好きな卯波先生に、今すぐに駆け寄りたい。
院長の声に振り返った卯波先生。
いったいどうしちゃったの。
夢じゃないかと、息もつけないほど驚いた。
夢じゃないかっていうのは逢えたからじゃなくて、卯波先生の変わりように驚いてしまった。
だって目の焦点は合っていなくて、意思も感情も捨ててしまったような眼差しは生気を失い、目に光がない。
どうして、こんなになってしまったの?
「どうしたんだよ、その顔。まだ本調子じゃないのか? 病院には行ったのか?」
真剣に訴えかける院長の目つきは、説明を求めるように卯波先生を見ている。
しょっちゅう連絡を取り合っている院長でさえも、瞬きを忘れて驚いている。
「心配することはない。相変わらず、俺のことになると大げさだ」
笑ってごまかさないでよ。憔悴の跡は目の下にも薄黒く残っているよ?
倒れたって聞いているんだから、わかっているんだから。ねえ、卯波先生ったら。
遠くに視線を馳せるようにして、ちらりと近くの卯波先生を見つめた。
私の目に映る卯波先生は、なにも考えていないような、心の拠り所がなにもないような、空っぽな眼差し。
感情も思考も閉ざされ、自由に羽ばたくことなどできない鳥のようで、顔つきには魂が宿っていない。
どうして。どうして、こんな抜け殻になってしまったの?
私は、ずっとずっと逢いたかった。その想いだけを胸に抱いて生きてきた。


