策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「とにかく、フキが元気になってよかったわよね、嬉しいね」
 坂さんの優しさと、抱き締めてくれるぬくもりに安心して涙が止まらない。

「せっかく落ち着いたのに、また泣かせちゃったかしら」

「そんなに優しくしないでください」
 声が詰まっちゃう。

「早く一人前にならなくちゃいけないんです」

「生まれたばかりの赤ん坊が、いきなり立って走れるわけがないだろ。俺たちは、緒花を一人前にするためにいるんだ」

 馬鹿を言うなって言いたそうな院長の声が、耳に届く。

「緒花さんは、今までのいろいろな想いが、一気に溢れ出してきたんですよ」

 坂さんは抱き締めてくれるときは、いつも子供をなだめるようにしてくれる。

「がんばってるもんね、いつだって健気にね」

「四月から今まで、俺たちのあとを必死について来たよな、どんなときも笑顔で」

「疲れたときは疲れたって言って。誰だって疲れるし、つらいこともあるわ」
 院長と坂さんの言葉が胸に沁み渡る。

「あっけらかんとしてるから、つらいとかあんまり感じてないのかもしれない。めげない、くよくよしない、ケロッとしてる」

 院長は、私のことを褒めているんだよね?

「これでも、緒花くんなりには感じている。ただ、深刻さが長くはつづかない」
「鈍感力が高いよな、これ褒めてるからな」

「院長も卯波先生も、私をけなしていませんか?」
 おかしくない?

「もう一度言うよ、褒めてる、信じろよ」
 院長が作ったような真顔で、じっと見つめてきて深く頷いてくる。

「本当だ」
 卯波先生の言葉に、こくりと素直に頷いた。

「おい、俺の言うことは信じられないのかよ」
「そういうわけではないです」
「嘘つけ、正直な反応だったよ」

 院長の声に取って変わり、坂さんの笑い声が広がって、つられて笑う院長の笑顔は人懐こい。

「俺の言うことを聞けよ。なあ、本当に緒花の頭の中には、バッタとカエルがいるよな。取っ散らかってる」

「あっけらかんと笑って」
 坂さんの口から思わず漏れた、ふふって笑い声が楽しそう。

「緒花は気にしないんじゃなくて、そもそも気づいてないんだよ?」
 院長が、子どもに言い聞かせるように優しく説いてくる。

「そういうところが、鈍感力が高いって言うんだよ」

「私だって疲れますよ。でもみなさんの役に立ちたいんです、いつも助けられてるから」

 院長は明るく、坂さんは優しく、次々と声をかけてくれて、卯波先生は穏やかな見守るような笑顔を浮かべて、私たち三人を見つめている。

 卯波先生のほんのり温かな熱視線に気づいて、瞳を見つめたら無理。