策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「よかったですね、オーナーが早く連れて来てくださって」

「心配性のオーナーだから早く連れて来てくれたよな。この子は助かる」
 確信している院長の笑顔に、私も安心して笑顔になれた。

「別の子みたい。目も輝いて生きいきしていますよね」

「最初のころは注視能力低下で、目の焦点が合わなくてうつろな目だったのにな。よくここまでがんばったよ、フキ、偉いぞ」

「ほら、じゃれついてきますよ」
「元気に動き回れるようになったから、ついでにそのまま保定してくれ」
「はい」

 本当に嬉しい。フキ、保定ができるまでに元気になってくれたんだね。

「嘔吐とお腹の下りが止まってるから抗生剤、あと腸内の善玉菌を補充する薬と、消化を助けて栄養を吸収する薬を投与する。あとは?」

「栄養剤の点滴の続行です」
「どうして?」
「脱水症状が命取りになるから、水分補給のためです」
「正解」
 嬉しそうな院長の声に、つられて私も頬が緩む。

「ラゴムの信条は?」
 少し離れたケージのほうから、タイミングよく卯波先生が質問してくる。

「念には念を入れよです」
 ちらりと顔を上げたら、卯波先生が優しい笑顔で浅く頷いた。

 控えめながらも卯波先生の顔中いっぱいに、ラゴムが大好きって微笑みが広がっている。

「よくできました、頭はあとで撫でてやる」
「院長の口が悪いのがうつるから、ちょっと」

「そうだな、俺も緒花の頭撫でて、馬鹿がうつるのは嫌だしな」
「馬鹿って言うほうが馬鹿ですよ」

「真正の馬鹿は、自分の馬鹿に気づかない」
「馬鹿は風邪引かないって言いますもんね」

「緒花は、風邪を引いても気づかないだろ」
「院長でしょ、気づかないのは」

「もう二人とも、その辺にしておけ。やめろ」

 卯波先生が私たちの会話に割って入ってきて、世話の焼ける子たちを叱っているみたい。

 やれやれって呆れているけれど、口調は優しい。

「またか。まさしく二人は犬猿の仲だな。俺は犬と猿の仲裁役の桃太郎だ」
「院長が猿」

「さっきも緒花くんから吹っかけた、宝城を煽るな」
「怒られてやんの。ばあか、俺の勝ち」

 院長が、馬鹿の“ば“にアクセントをつけて強調してきた。

「勝ち誇ってるのは、おかしいですよ。どうして私が負けた格好になってるんですか?」

 院長に問いかけたら、あっかんべーだって。ムカッ。

「なぜ二人は、寄ると触ると小競り合いばかりするんだ、もうおしまい」
 
「フキの処置も終了だ、緒花、お疲れさん」
「お疲れ様です」

「なぜ二人は、何事もなかったように、ふつうに戻るんだ?」

「さっきのも日常だよ。な?」
「はい、私たちにとっての日常会話です」

「ケージに連れてくぞ、フキ抱っこして」
「はい! 院長」