策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

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 弱々しかったフキが来院してから、十日が経った。

「卯波、見てくれ。フキ、こんなに元気になった」
「好転反応だ、揺り戻しがきたな」

 歓喜の声を上げる院長に、フキの瞳が反応して、きらきら輝いた。

 フキ、凄いね、反応するようになったんだね。

「フキは大丈夫なんですね」

「揺り戻しがきたってことは、しっかりといい変化をしてるっていう証拠だ。安心して大丈夫だよ」

 院長の満面の笑みに、私の頬も喜びで緩む。

 卯波先生は、どうかと横目でちらりと確かめると、見守るような温かな目でフキを見つめている。
 
 優しく目を細めているから、じっと見入ってしまう。

「フキの入院初日は、徹夜で看病してたもんな。俺が残るって言ったのに」

「宝城は、救急や連日の長時間オペで疲れていた。任せろ、徹夜ぐらい俺がやる」

「卯波だって、学会やセミナーや勉強会で、あちこち飛び回って大変だっただろ」

 そうそう、心配するくらい飛び回っていて大変だったんだから。

「なんてことはない。今回は俺が徹夜をしなかったら、助かる命も失われていく」
 涼しい顔で徹夜なんか、大したことないって感じ。

「頼もしいな」
 明るい院長の笑顔は今日も輝いて、まさしく太陽。

 心から信頼し合い、思い合って気遣って、本当に二人はお互いのことが大好きなんだね。

「損得勘定を抜きにしても、成功するかどうかすらわからなくても、命を救うために今は退くわけにいかない」

 腕を組み、フキを見つめる眼差しはフキの気持ちに触れているの?

「徹夜してると、輸液ポンプのアラームが鳴るたびに様子を見に行ってたら、そのうち鳴ってないのに、アラームの幻聴が聞こえてきた。そういうことあるよな」

 院長が経験談を話し始めた。

「まさに昨夜だ。あれだけ鳴れば耳も勘違いする」

 二人だけが共有するように、リラックスして笑い合っている。
 男同士の友情っていいな、とっても楽しそう。

「フキは、初診から一週間以上もがんばってる。発症して九日目の検査結果は?」
「陰性です」

「それが、なにを意味することかわかるか?」
 院長の質問に答えられなくて、片側の頬が引きつってしまう。

「まだわからなくていい。抗体と感染耐過免疫ができてるから、回復したと言ってもいい。覚えておけ」

 私の救世主、卯波先生さりげなくフォロー。

「教えてくださって、ありがとうございます」

「助け船なんか出して、卯波かっこいいな」
「茶化すな」
「茶化してないよ、本気だよ」
「能天気」
「照れるなよ」
「馬鹿か」
 なにその恋人同士みたいな掛け合い。