策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 卯波先生と初めて逢った日も、今日みたいに日射しが温かくて和やかな朝だった。

 眩しそうに目を細めて、私の顔を見ていたっけ。

 卯波先生、オンにしている? 私は卯波先生に逢えるのが嬉しくて、胸も足どりもワクワクだよ。

 そうそう、うちのマンションは少し歩くとひとけのない細い路地に出る。

 卯波先生が、夜道は危険とかひとり歩きは危険とかって心配する路地。

 危ない目にあったなんて聞いたことがない、平気だってば。

 あああ、それより、なにを見てもなにを考えても卯波先生を思い出す。
 逢えるのが嬉しくて、心も足どりも弾んで飛んで行っちゃいそう。

 私の卯波先生への想いをかき消すように、うしろから地を揺るがすような轟音が聞こえてきた。

 昨夜みたい。振り向きざまに運転手の顔を見た。
 ふわふわした長い髪で、口もとの左側にほくろがあった。

 特徴的なほくろ、間違いない。間違えるわけがない、あの人だ。
 サニーの散歩で、ぶつかられて転んだときの人と同一人物。

 今度は明るい日射しの中で、真正面からはっきりと顔を見た。

 私の横をすれすれに猛スピードで追い抜いていった自動車は、ナンバーまでは覚えていないけれど、昨夜の真っ赤な高級外車と同一車種だった。

 この人との接触は、もうこれで三回目。偶然なのかな。
 ラゴムに来院するオーナーじゃないよね、見かけない顔だし、誰だろう。

 怪我もなかったし、卯波先生に話すほどでもないね。

 ラゴムに到着して、待合室の掃除をしていると卯波先生が入って来た。

「おはようございます、おかえりなさい」
 待ちに待った卯波先生との劇的な再会が、今ここに幕を開ける。

「おはよう、大げさだ」
 困った表情で、傾げた首を人差し指で撫でる戸惑った顔さえも、渋くてかっこいい。

 そのしぐさを見せつけられる、私も困る。

 卯波先生が、不自然にうしろに回していた手をごそごそしながら、つっけんどんに私の前に差し出してきた。

「嬉しい! 茶トラ猫のぬいぐるみ。ありがとうございます、柔らかくて可愛い」
「気に入ったようでなにより」

「お気に入りです、大好き」
「俺を」
「ですし、この子もです」
 ちょうど胸の中に、すっぽりと収まって抱き心地がいい。

 猫のぬいぐるみを抱き締めて、頬ずりして顔を上げたら、優しく微笑む目と目が合った。

 ──数十秒間の沈黙に包まれた──

「さっきから俺のスクラブに、なにをしているんだ?」
 胸もとを伏し目で見下ろす顔は怪訝そう。