策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

「俺がなによりも苦痛でつらいのは、桃が身の危険に曝されることだ。そのままマンションの部屋に入るまで、電話を切るな」

 卯波先生とつながったまま、話をしてマンションに到着した。

「ただいま」
 いつもの習慣で、誰もいない部屋に向かって、無意識に口から衝く。

「おかえり」
 電話の向こうから優しい声が迎えてくれた。

 思ってもいない幸せに動かされて、嬉しくて反射的に笑顔が溢れた。

「嬉しいだろう」
「嬉しいに決まってます、飛び跳ねたいくらい。いつか卯波先生を迎えたいなあ」

「一日の最後、おやすみの挨拶も毎晩ベッドで俺の腕の中でになる、いずれ」

 ベッドで俺の腕の中。まずい、想像しただけで恥ずかしくて唸った。

「んんんんん」
「なんて声を出しているんだ」
 柔らかな微笑みが目に浮かぶように、卯波先生の息遣いが耳に触れた。

「もうおやすみ」

「おやすみなさい、今日もお疲れ様でした。ぐっすり眠ってくださいね。私は思いきり卯波先生の夢を見ますから」

「明日、遅刻するなよ」

「もううう、最後まで聞いてくださいったら。夢の中よりも早く卯波先生に逢いたい」

「だろうな」
「素っ気ないんだから」
 返事は素っ気ないけれど、まんざらでもなさそう。

「卯波先生も、早く私に逢いたい?」
「ああ」
「素っ気ないです」
 私は、すぐにでも逢いたいのに。

「一晩眠れば逢える」
「早く帰って来て」
「ああ」

 軽く微笑んだでしょ、熱い息が耳に届いたもん。
 卯波先生も早く私に逢いたいんだ。

「おやすみなさい」
「おやすみ。そうさ、俺だって早く桃に逢いたい」

 照れくさいのか、すぐに電話が切れた。また、心を読んじゃって。早く逢いたい。

 ***
 
 翌朝はカーテンの閉めが甘かったようで、隙間から光が入ってきて、早く目覚めよと起こされた。

 あまりに想いすぎると、夢の中に出てきてくれないって話の通りで、昨夜の私の夢に卯波先生は出演してくれなかった。

 愛情という名のギャラは、生涯払い切れないほど、たっぷり用意して待っているというのに。

 玄関から出ると、軽快な日射しを全身に浴びる。あああ、気持ちいい。
 やっと卯波先生に逢える。

 たった一晩離れただけなのに、ずっと離れていたみたいに感じてしまう。

 私にとって卯波先生と離れる一晩は、たった(・・・)じゃない。
 たかが一晩、されど一晩なの。

 心から逢える喜びや、逢えたときの感動を噛み締めるために離れているみたい。
 なんてね、ちょっと大げさかな。

 とにかく卯波先生に逢えるのが、とっても楽しみ。