策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 反骨心のある子は反抗するのに、ルナは一生懸命おとなしく素直に動くような、優しくて温厚な性格でいい子なんだろうな。
 
 犬の習性を無視した仕事をさせられて、よくがんばったね。
 
 肥満はいない犬種として、最初に名前が挙がるほど神経質でデリケートなパピヨンなのに。

 この性格の子に仕事だなんて、経営者はパピヨンになにをさせるの。

 ルナは仕事をしていたときは、相当つらかったと思う。

「ルナちゃん、落ち着いていますね。食欲もありますか?」
「はい。よく食べ、よく寝て、よく散歩して元気です」

 今はオーナーが不変のリーダーだから、ルナのノイローゼの症状はなくなったって。

 初期のころは投薬治療も施していたんだそう。犬にも心のケアが必要な病気がある。

 今はたまに様子を見せたり、健診やワクチンで来院するんだって。今日は様子を見せに来たって。

 卯波先生や私との話し方やルナへの接し方、それに醸し出す雰囲気や笑顔に、オーナーの慈悲深い人柄が滲み出ていて、初対面なのに私も柔らかな笑顔に癒される。

「ルナちゃんのお母さんの愛情が、底なしに深いから、ルナちゃんは心を開きましたよね。最初は、お母さんに抱かれたまま固まっていましたよね」

「それでも、卯波先生は特別ですよ。私にしか懐かなかったのに、いきなり初診から急速に距離が縮まったのは驚きました」

 オーナーが目を白黒させて、びっくりしたっておどける。表情豊かで楽しいな。

「もう二回目からは卯波先生に一直線ですもの。ルナさん、私はお払い箱かしら」

 卯波先生に抱かれたルナは、潤んだ瞳で一心に愛しの人だけを見つめている。

「現金な子ね。見向きもしないんだから」
「お母さんがいてくれるから、安心して僕に抱かれてるんだよね、ルナちゃん」

 私とモア以外にも、あんな顔するんだ。

 マシュマロと練乳でも混ぜたように甘くとろけそう。
 今、ルナとどんな会話をしているのかな。

「お母さんは、ルナちゃんの心身の健康のために、多頭飼育や他の動物を飼うこともしないで、ルナちゃんだけに全愛情を注いでくれているんだ」

 私に体ごと向けて熱心に教えてくれる。

「ルナが苦労した分、ルナのことだけを想って、覚悟を決めて引き取ったんてす。ルナを一生幸せにします」

「お母さん、まるでプロポーズですね」
 卯波先生のひとことに取って変わり、笑い声が広がる。

「先生は、まだなの? これだけハンサムなんだから、お相手いらっしゃるんでしょ?」