死んだはずの遠藤くんが教室に居る話


「早くどうにかしないとダメだよね」
 遠藤くんがそう言うと、北沢は照れたように「ダメだよね」って同じ言葉を言う。

「女の子から告白させちゃいけないって、こんな僕でも思う」

「そうだそうだ」
 北沢は小さく同意しながら、うつむいて頬を赤くしていた。

「後から言うから」
 僕が口ごもると遠藤くんは「絶対だよ」って言って、急に姿を消してしまった。

「遠藤くん?」
「遠藤くんどこ?」
 僕と北沢は何度も名前を呼び、あちこち教室中を見るけれど、遠藤くんは現れず、ただ白いカーテンがまた揺れ始めただけだった。

 僕たちは自分の席に座り直し、隣の遠藤くんの机をじっと見つめていた。

 今度こそ
 遠藤くんとは本当のさよならなんだ。

「今朝は、早く学校に行かなきゃいけない!って気持ちがすごく焦ってた」
「そうなんだ」
「遠藤くんに呼ばれたのかもしれない」
 北沢は顔を上げて僕を見る。
 サラサラした髪に触れてみたいと思ったけれど、まだ僕にその資格はない。

「内田くんのアルトサックス聴いてみたいな」
 ポツリとそう言ったので、僕は「来年、楽器が空いたら挑戦してみようかな」と答えた。

 遠藤くんとさよならして
 急に教室の温度が上がった気がする。

 呼吸を整え「付き合って下さい」と、告白すると

 北沢は「はい」と微笑み返事をした。




 僕たちの夏が始まる。




              【完】