「…八尋くん」


 席に座っている八尋くんは、なにも言わずに私を見上げていた。


 …やばい。心臓がバクバクしすぎて、声が震える。


 というか、声が出ない。


 クラスメイトから見られてる気がする。


 恥ずかしい。今にも逃げ出してしまいそう。


 でも、ここで逃げたら、絶対に後悔する!


「…これっ!…よかったらもらってくれませんか…?」


 と、私は八尋くんにチョコを渡した。


 彼は驚きながらも、チョコを受け取ってくれた。


「…ありがとう」


 受け取ってもらえた今でも、私の心臓の音は鳴り止まない。


 八尋くんにまで聞こえてしまいそう。


「…お返し、待っててください」


 お、お返しくれるの…!?


「あ、ありがとう…ございます」


 普通の時にはしゃべれるのに、こういう時にはなぜか敬語になってしまう。


 なんかさっきの会話も不自然な感じがする。


 私はすぐにぺこりと頭を下げて、荷物を持って教室を飛び出した。