「ホントは先輩って、誰より愛情深い人なんです。だから……」



自分のことそんなに悪く言わないで。


言おうとして、言えなかった。

先輩の手が伸びてきて、リナの頭をぎゅっと強く抱きしめたからだ。



「……っ、せ、せんぱ……」

「里菜ちゃんって変な子だよね」


そう言った先輩の声が震えていたから、リナは何も言い返せなかった。

遠くで始業のチャイムの音が聞こえる。

耳元で先輩の湿った吐息が聞こえて、リナの世界はそれだけになった。


……先輩、泣いてるの?


「あはは。俺が愛情深いかあ。初めて言われたなあ」

「……先輩」

「俺が知らない俺のこと、見つけるのがすげー上手いよね。俺のファンだったりする?」

「……ばかじゃないの」

「ごめん。なんか、くだらないことしか言えない」

「いいよ。普段もくだらないことしか言ってないでしょ」

「あはは。ひでえ」


先輩が一層強くリナを抱きしめる。

それから数分間だけ、彼は何も言わずに私の肩で泣いていた。


彼の小さな泣き声を聞きながら、今日この人に、他の人より少しだけ多く幸福が訪れますようにと祈った。