【カオルside】


小さい頃の俺はずっと一人だった。

産まれてきてまもない俺と母親を置いて、父親は離婚届を机に置いて姿を消した。

母は、仕事と子育てと家事の両立で毎日疲れ果てていた。

学校から帰ってきても夜遅くに帰ってくる母はいない。

母が帰ってくるまで、俺はずっと一人だった。

面白くもないテレビを見て時間を潰す、そして眠る。その繰り返しの毎日。

家族と旅行に行った、誕生日パーティーをしたと楽しそうに話す友達が羨ましかった。

母を困らせたくなかった俺は「寂しい」なんて一度も口にはしなかった。

友達の家に転がり込んで遊んでも、夜ご飯になったら必ず帰された。

「そろそろ帰らないと親御さん心配するよ」

そう言われる度に、虚しくなった。

俺が中学三年生になった時、母が会って欲しい人がいると知らない男を家に連れてきた。

その男が、のちのち母と再婚することになる俺の新しい父親だった。