翌朝、春霞といった様子の(もや)が立ち込める冷たい空気の中、凪徒は団長室へ向かっていた。

 彼が目覚めた時、既に秀成はパソコンの横に突っ伏していた。

 その肩に上着を掛けてやり、起こさないようにと静かに外へ出た。

 さすがに二晩も血眼(ちまなこ)になって画面に張り付いていれば、途中で落ちてしまうのも無理はない。

「団長、起きていますか?」

 凪徒はガラス戸の外側から小さく声をかけたが、ややあって真ん丸の影が近寄り、その扉を開いた。

「おはようございます、団長」

「おはよ。随分早いの、何時だ?」

 パジャマ姿がカーテンを寄せて、まだ眩しいとは言えない朝の薄明かりが暗い部屋に射し込まれる。

「すみません……起こしちゃいましたか?」

 凪徒の言葉には既に鋭いものは消えていた。

「いや……着替えるから、ちょっと待っとれ」

 と、奥に立てられたパーテーションの陰でモソモソと音を立て、しばらくして普段着の団長が現れた。

 テーブルに置かれたオジサン臭いセカンドバッグを手に取り、扉の傍らに立つ凪徒に一つ目配せする。

「団長?」

「腹が減っては(いくさ)は出来んぞ? ハンバーガーでも食べに行くか?」

 ──説教は戦なのか?

 そう苦笑する(おもて)を履物に手を伸ばす団長の背に向けて、凪徒は無言で頷きその後ろに続いた。



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