その夜の貸切公演で、凪徒は危うく落下事故を起こしかけた。

 個人演技の最中だったために夫人に迷惑を掛けることはなかったが、セーフティネットの届かない支柱の傍でのアクシデント故、それを見ていたスタッフと観客は一瞬肝を冷やしたことだろう。

 貸切公演ということもあって団体客のトップに謝罪を申し入れ、団長と共にお詫びに伺ったが、「ともかく無事で良かったね」との慰めの言葉に、しばらく足先が近くなった頭を上げることは出来なかった。

「さて……本来なら説教タイムとなるところだが、今夜はもう遅い。良く休んで明日の朝、わしの所に来なさいの」

 団長室の手前でそう告げられた凪徒は小さく「はい」と答え、自分の車の布団に突っ伏した。

 ──こんなこと、何年もなかったのに──。

 自身に怒りが込み上げて止まらない。