「父親か……」

 自分の父親とは、母親とは、どんな人物でどんな理由で自分を手放したのだろう。

 今までにも時々考えることはあった。

 置き去られた布の中には「この子の名前は桃瀬です。一年以内に必ず迎えに参ります」と書いた紙片があっただけだという。

 けれど何年待っても迎えは来なかった。嘘だったのだろうか?

 それでもまだ冷たい三月中旬の寒空を心配して、温かな布きれに包んでくれていた。

「あたしの父親代わり……」

 サーカスで働くまでは園長先生が父であり母であり、そして施設の皆が兄弟だった。

 では今は? 誰かがそういう対象なのだろうか?

 誰か──団長? 暮さん? 先輩?

 “お前……お仕置き。デコ出せ”

 ブランコでミスをした時の、長~いお説教の後に囁かれる地獄からのような声を思い出し、モモは思わず額を両手で押さえた。

 あの悪魔のような目つきと超高速で放たれるデコピンの痛さと言ったらもう鳥肌ものだ。

 そしてきっと今回もサーカスへ戻ったら……一発だけでは済まされないかもしれない。

「と、とにかくここでは優しい高岡さんがお父さんなんだからっ」

 ──先輩のことは少しだけ忘れよう……。

 茜色に染まり始めた西の空を眺めて、モモは小さく溜息をついた──。