「暮さん、もう少しでご飯も炊けるみたいです。そろそろそれ、焼きましょうか?」

 とモモはフライパンを片手に、暮の作り上げた大判ハンバーグへ逆の手を差し出した。

「いいよ、モモ。私が焼いて差し上げましょう」

 暮は演じるピエロのように、しなやかな動きで腕を三日月型に反らせ、淑女に対する挨拶をした。

 珠園サーカスのピエロは話さない。だからこそ普段の彼はとびきりお喋りだ。

「そっか……お得意ですよね。じゃ、お願いします」

 十代からここで世話になり、既に三十代も半ばになった独身男ともなれば、料理はお手のものとはいえ。

 フライパンを受け取りながら、それを誉め言葉と取って良いものか複雑な気持ちもあった。

 それに──。

「モモは相変わらず……」

「え?」

 ──堅苦しいね。

 そう言いかけた口元をすぐさまつぐんで、何でもなかったように笑みを見せた。

「あーいや、相変わらずモモは可愛いなぁと思ってね」

 おどけたウィンクで返して、暮は早速二つのフライパンを火に掛ける。

「もう、暮さんたら、あたしにお世辞なんて言っても何も出ませんよー。じゃ、配膳してきますね」