「わたくしがお話致します、お嬢様。実は、ご主人様も病を(わずら)っておいででございまして……もってあと半年と医師から宣告されているのです……ですから」

「「ご主人様がたとえ答えを導くことが出来なくても、どうか水曜日までこちらに(とど)まってはいただけませんでしょうか」」

「え……?」

 凛とした花純の言葉に、途中から涙を拭った桔梗が加わる。

 シンクロした二人の声で思わぬ懇願をされたモモは一瞬ひるんでしまった。

 高岡紳士が余命半年?

 ──あんなに縦にも横にも立派な身体を持ちながら……真実なのだろうか?

「先日胸部のレントゲンで大きな影が見つかりまして……ご主人様はようやく奥様と明日葉お嬢様に会えるだなんて、少しも病に立ち向かうお気持ちがないのでございます。もしお嬢様が三日後まで滞在されてご主人様を勇気づけてくだされば、きっとお元気になられるのではないかと……」

「はぁ……」

 徐々に陽の落ちてきた煉瓦の地面に、三人の影が少しずつ伸びていった。

 桔梗と花純の願う瞳からモモの瞳は逸らすことも出来ず、しばらく困惑の色を見せながら再び沈黙の時間を漂った──。