「あの、お嬢様。一つ申し上げても宜しいでしょうか?」

 桔梗が珍しく笑顔以外の表情を見せたので、モモはすぐに「もちろんです」と答えた。

 何とも申し訳なさそうな、淋しい上目遣いをしたのだ。

「実は……──」

「桔梗?」

 その時彼女の背後から同じ声が呼びかけて、振り返った向こう側に、先程と全く同一の駆け寄る姿が近付いてきた。

「花純……」

 桔梗が少し困ったように花純から目を逸らす。

 どうも聞かれたくない話のようだ。

「やっぱり! 桔梗、お嬢様にあの事をお話しようとしたのね? 駄目よ……お嬢様が心配するだけだわ。それにご主人様には口外しないようにと止められたでしょ?」

「でも、このままじゃ」

 自分の聞こえる範囲でやり取りされては、さすがに訊かずにいられる訳もない。

 モモは早速姉妹の会話を止めて二人を問い(ただ)した。

「あ……申し訳ございません、お嬢様。実は……」

 やっと話せる状況になったのにも拘わらず、桔梗は涙を堪えるように口をつぐんでしまった。