しばらく二人の間にはお互い声をかけようとする気持ちはなかった。

 じっと優しい風に身を任せて春の息吹を感じる。

 一年前まで確かにここには、自分に会いたいと願う同じ顔をした少女がいた。

 モモはずっと遠くまで細部を見たいと目を見開いた。

 明日葉の愛したこの庭園を、隅から隅まで心に閉じ込めるように。

 どうして間に合わなかったのだろう……そう思うと、胸元を針のような鋭い棘に刺し貫かれる感じがした。

 もしも自分が一年早くブランコ乗りになれていたら。もしも明日葉がせめてあと数ヶ月でも生き永らえてくれていたら……でも『もしも』はいつまで経っても『もしも』なのだ。

 誰も過去は変えられない。

「ご主人様~! 会社からお電話でございますー」

 そんな感傷の最中に、花純の──いや、桔梗か? 高岡を呼ぶ声と携帯電話を掲げて駆け寄る姿が映った。