「休演日や休暇中には必ず鉄棒でイメージトレーニングすることにしているんです。これのお陰でブランコ乗りのテストにも合格出来ましたし、あたしにはお守り代わりと言いますか……」

「君は本当に空中ブランコが好きなんだね」

「はいっ」

 モモはワンピースであることも忘れて反動をつけ、数回鉄棒を軸に回転した。

 それからその棒に腰かけて、眼下となった高岡を見下ろした。

「昨春の公演、本当は明日葉と一緒に君の晴れ姿を見に行く予定だった。少し前にサーカスのチラシが手に入ってね、あれを見た時は本当に驚いたよ。明日葉は元気にポーズを取る君の姿を見て、是非この目で動く君を見てみたいと、そのためにも絶対手術を乗り越えてみせると約束した。……だからこそね、私は君から空中ブランコを取り上げることはない」

 モモはその温かな眼差しと言葉に、心臓が一つ、大きく強く波打った気がした。

 潤んだ瞳を揺らしながらただ無言で頷く。

 少し高い位置となった視界から映る、淡い色彩の風そよぐ光景。

 それを真っ直ぐな気持ちと決意で、その眼にその胸に焼き付けた──。