「どうかお気にされないでください。あたしは両親がいなくても、園長先生や施設のみんなや、学校の友達から沢山の愛情をもらえましたから」

 その言葉でやっと身を起こした高岡は、僅かに気まずさを残しながらも安堵の息を吐き出した。

「それは良く分かる気がするよ、明日葉。君の笑顔はとても沢山の愛情を注がれてきた輝きが感じられる。きっとサーカスの皆さんにも愛されているのだろうね」

「そ、そうでしょうか……」

 恥ずかしそうに再び俯いたモモの横顔に、微かな(かげ)りを感じた気がしたのは何かの間違いか?

 紳士はまだ咲き誇る時期でない蔓薔薇のアーケードをくぐりながら、ふと思ったが、

「あ、鉄棒! すみません……少し使ってもいいですか?」

 突然元気な声を上げたモモの笑顔に、ひとまず心の(しこ)りを(ぬぐ)い去った。

「もちろんだよ」

 高岡の即座の返答でモモは勢い良く走り寄り、少し高めの鉄棒にぶら下がった。

 ──ふむ、さすが団員のことは良く分かっているんだな、タマちゃん。

 団長に感心の想いを向けながら微笑む高岡。

 実はモモを預ける条件の一つとして、庭に鉄棒を用意することをお願いされていた。

 でなければこんな美しい庭園に、どう考えても似つかわしくない、校庭にあるような鉄棒が(そび)え立っている筈がない。