「すまないね……ちゃんと訳を話しておいで願う予定だったのだが、『彼』がこういうシチュエーションにしてくれと言うものだから。私のボディガードがそれでもかなり力を抜いたのだが……首の後ろはもう痛まないかい?」

「あっ!」

 それでようやく昨日のことをモモは思い出した。

 ──あの黒い革靴の男性と同じ声。背後からの衝撃は……『ボディガード』の手刀(しゅとう)

「あの……どうしてあたしを誘拐なんてしたんですか? アスハって誰のことですか? いつあたしをサーカスに戻してもらえますか?」

「……」

 五十前後と見られる高級スーツの姿は、長身でやや恰幅が良く紳士然としていた。

 男らしい一重の瞳にうっすらと水の膜が張られてゆく。

 そんな眼差しでモモを真正面に見つめた彼は、それからゆっくりと話し出した──。



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