「あの……ここはどこですか? 私はアスハではなく桃瀬です。あなたはどなたですか?」

 ベッドの上で正座をし、モモは戸惑いながら問いかけた。

 気付けばこのまま舞踏会にでも行けそうなレースの美しいネグリジェを身に着けている。

 目の前の布団も「布団」だなんて言ってはいけないような豪奢(ごうしゃ)で繊細な作りだった。

 ベッドサイドに侍り、困ったような微笑みで見つめる女性は二十代半ばといったところだろうか。

 いわゆる最近流行りのメイド服を落ち着かせたような衣装で、確かに口振りもメイドらしかった。

「あのっ……」

 何も答えない女性にもう一度問いかけようとした矢先、遥か遠くの扉からノックの音が聞こえた。

 女性は扉へと向けた視線を今一度モモへ戻し、

「明日葉お嬢様、ご主人様がお見えになられました。このままお会いになられますか? お召し替えを先になさいますか?」

 ──アスハじゃないって言ってるのに~!

 否定の眼差しを一心に向けてみても、メイド風女性のマイペースは一向に変わらない。

 これ以上質問するのは無理だと悟ったモモは、とりあえず扉の向こうの『ご主人様』とやらに事の真相を確かめることに決めた。

 仕方なく着替えを先にとお願いして、『ご主人様』にしばし待ってもらうよう(ことず)けたが、出てきた華やかなドレスを目に入れた瞬間と、手伝おうと胸元のボタンに手をやられた刹那、モモはこの世の物とは思えぬほどの大きな悲鳴を上げていた──。