一旦頭を抱えて目を伏せ呼吸を整える。

 やがてゆっくり背筋を伸ばし、団長を睨み付けたまますっくと立ち上がって、その真ん丸な身体を冷たく見下ろした。

「団長の考えは分かりました。モモは自分で探します」

「どうあがいても無駄だ。国が動いてるんだから」

 自分の膝に頬杖を突き、冷めきった茶をすすった団長も立ち上がったが、何をしても見上げる格好の背丈の彼には、幾ら頑張っても威厳や権威は見当たらなかった。

 ──それでも。

「ま、そういう訳で警察に話しても、あちらさんは動かない。これは誘拐事件にはならんで、そっちは諦めときなさい。が、公演に影響しない程度でお前が動くのは構わんよ」

 ──団長?

 そう首を(かし)げたのは凪徒だけでなく、腰かけたままの暮もであった。

「では、失礼します」

 独り部屋を出る凪徒にピシャリと扉を閉められた先の暮は、やっと緊張をほどいて団長に呟いた。

「いいんですか、団長? あれは本気ですよ?」

「いいんじゃないか、暮? たまには本気にさせてみても?」

「?」

 そう返した団長に対し、暮の頭には疑問符が駆け巡った。

 先程の凪徒と同じように星空を見上げる。

 ここでの巡業の暗雲立ち込める始まりに、仄かに不安を募らせた。



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