思わず時間も忘れて、次の句が声にならないまま少女を見つめてしまう。

 ブランコ乗りなんて生まれつきサーカスで育った団員の子供か、そちらの業界で番が回らずくすぶっていたどこかのメンバーが流れてくるのが殆どだ。

 それとも今まで体操の選手でもしてきたのだろうか?

「えっとそうだな……教えている場所は特に知らないけど、二月にうちで採用テストがあるから受けてみれば?」

 この時既に鈴原夫人の引退は決まっていて、各方面に募集の声は掛けられていた。

「ほっ、本当ですか!?」

 凪徒に凝視されて困ったような嬉しいような、上気した頬を上げていた少女は、その言葉に更に瞳を輝かせ、絶品の笑顔を見せた。

「うん……でもその頃には移動しているから、そのテストは次の公演場所になるけどね。詳しい日程や募集要項は、向こうのスタッフに訊いてみて。健闘を祈ってるよ」

「ありがとうございます! 頑張ります!!」

 そうして笑顔で交わした握手の少女が、まさか空中ブランコの経験もなく、体操の選手でもなく、もちろんサーカス団員の娘でもなかったことを知ったのはその三ヶ月後。

 今いるこの桜並木の町での採用テスト会場だったというのだから、この地へ来る度に思い出されるそんな衝撃の事実と、それにも(かか)わらずあっさりとブランコ乗りの座を勝ち取ってしまったモモの凄さには、思わず苦笑いのこみ上げる凪徒だった。



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