あれはまだ寒風吹きすさぶ晩秋の公演だった。

 全てのショーが終わった後には、ちょっとした有料の記念撮影なども催される。

 相変わらず一番人気の凪徒の元には若い女性の行列が出来ていた。

 その列の最後尾が確かモモだった。

 目録を大事そうに胸に抱えて大きな瞳をキラキラ輝かせていたのが、とても印象的だったことを良く覚えている。

 通常その冊子の最後のページにサインをし、握手と肩を並べて撮影すれば終了なのだが、モモの目的はまるで違っていた。

「す、すみません……あの、質問があるのですがっ」

 いつものように右手にペンを持ち、左手はパンフレットを受け取ろうと差し出したが、サラリと肩すかしを食らわされてしまった。

 凪徒は少し驚いた表情で、緊張の面持ちの少女を見下ろした。

「はい。何でしょう?」

 お客だけ(、、)には愛想の良い凪徒は、にこやかな笑顔で応えた。

 どうせ「彼女はいますか?」とか、「独身ですか?」と定番の質問が返ってくるのだろうと高をくくりながら。

 しかし──

「えっと……あ、あのですねっ、空中ブランコ乗りにはどうしたらなれますか?」

「え?」

 良く通る綺麗な声なのに、つい訊き返してしまっていた。

 そんな質問、今の今まで受けたことがなかったからだ。

「君がなりたいってこと……?」

「はいっ! あんなに素晴らしいショー、自分にも出来たらって……」